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第141話

「ずっと、ずっと、飛雄の傍にいてやるから、だからお前は安心して俺だけを信じろよ」 「なんでそんな上から目線なんスか! 及川さんのボゲェ!」 なんて文句を言ってるけど、その声は自分でも笑ってしまうほど嬉しそうな声だった。 そんな俺に彼も笑って、また強く抱き付いてくる。 そこで気付いた。 彼の身体が異様なほど熱いことに。 興奮してて忘れてたけど、そう言えば及川さんは俺のせいで風邪引いてたんだった。 吐息もいつもより荒い気がする。 もしかして風邪が悪化した? 俺はそれでなくても近い顔を更に近付けて、彼の額と自分の額をくっつけた。 「何トビオちゃん? そんなに近付いてきて。もしかしてまたキスしたいの?」 「何バカなこと言ってるんスか。 それより、及川さんの顔あちぃっすよ! やっぱり俺の風邪が移ったんすね。 早く離れて横になってください!」 そう一気に捲し立てて離れようと及川さんの胸を押すが、反対に強い力で抱きしめられ離れなくなった。 「ちょっと及川さん離してください! 風邪移してすんませんでした。 俺看病するんで、横になってください」 「看病してくれるのは嬉しいんだけど、顔が熱いのはお前に欲情してるからだよ。 そんなことより飛雄こそ風邪は大丈夫なの?」 「……よくじょう?? お、俺はもうすっかり元気になりましたから、及川さんは早く寝てください!」 「そう、それなら良かった。 ねぇ飛雄 俺さ、 今すぐお前を抱きたいんだけど……」 耳元で囁かれた言葉に、引きかけていた身体の熱がまた上昇していく。 風邪引いてるくせに何言ってるんだこの人! ヤって風邪が悪化したらどうするんだよ…… 「だ、ダメです……」 「我慢出来ないよ」 抱きしめられたまま身動き出来ずにいると、及川さんが掠れた声で囁いて耳を甘噛みしてきた。 「んぁっ!」 「フフ、トビオちゃんホント耳弱いね。 今のゾクゾクする?」 「いぁ! や、止めてくださ……っ!」 早く休んだ方が良いのに…… なんとか及川さんの腕の中から逃れようともがくが、今度は柔らかくヌルりと濡れた感触を否応なしに与えられ、身体が勝手に反応して力が抜けてしまう。 「あっ、いやっ、ぅ……」 「フフフ、今の声エロ…… もっと聴きたいな」 「いや、で、す……バカなこと止めて、本当に休んでくださいよ…… お願いしま……あぁっ!」 震える声でお願いしたけど、また甘噛みされて身体がゾクリと反応した。 こんな体あちぃのに、なんで休まねーんだよ…… きっとダルいはずなのになんで? それに、休んでほしいと思ってるのに、それなのにこの感触に反応してしまう自分の体がムカつく…… 今も俺の耳に甘い攻撃をしてくる及川さんを睨み付けると、それに気づいた彼が眉を下げた。 「そんな顔しないでよ…… だって飛雄はずっと俺のせいで、悩んでたんでしょ? そのせいで俺達ちょっと擦れ違っちゃったけど、今またこうやって飛雄は俺の腕の中にいてくれて…… それが俺にとっては、すんごい嬉しいことなんだよ。 だからさ……沢山悲しませた分、今は飛雄に触れたい、いっぱい甘やかしたいんだよ。 もうこれ以上擦れ違わないために……」 「及川さん……」 そんなこと思ってくれてたのか…… 俺だって今こうして、及川さんと抱き合えることがものすごく嬉しい…… けど…… 「及川さん風邪引いてるのに、ダルくないんですか? 頭痛くないんすか? 心配なんです……」 「今は大丈夫だよ…… それにもしすごい怠くても、やっぱりお前に触れたい 飛雄を抱きたいんだ」 及川さんの真っ直ぐこっちを見つめてくる眼差しに、胸の高鳴りが止まらない。 俺も及川さんに触れてもらいたい でも、それで風邪が悪化したら…… 「そんなに俺に触れたいんですか? 風邪が悪化しても?」 「お願い、触れさせて」 熱い真剣な眼差しに想いが止まらなくなる ダメだ、負けた……やっぱり触れてほしい でも、及川さん風邪引いてるから、無理させたくない。 だから…… 「……分かりました そこまで言うなら、今日は俺が 及川さんを抱きます!」 「えっ! 飛雄が俺を?!」 俺の言葉に及川さんは、これでもかと言うほど大きく目を見開いた。

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