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第151話

「んぅっ……んーー………………ん?」 カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しくて、俺は瞼をギュッと強く閉じながら寝返りを打った。 その拍子に何かが手に当たった感触がして、俺はそっと目を開けた。 そこには顔を真っ赤にさせて額に汗を滲ませ眠る、愛しい人の姿があった。 「あっ! 及川さん風邪!」 そんな姿を見た途端俺は無意識に、思わず大きな声を出してしまっていた。 その大声に目を覚ましてしまったらしく、及川さんは眉間にシワを寄せて小さなくぐもった声を出した後、ゆっくり瞼を開いた。 「んぁ? あ、トビオちゃん、おはよぉ……」 こちらを向いて力なく、 でも穏やかで綺麗な笑顔を浮かべた及川さんに、俺の心臓がドキッと音をたてた。 火照った顔 潤んだ瞳 熱を含んだ吐息 色っぽくて綺麗だ……   そう思わずにはいられない。 この人は本当に整った綺麗な顔立ちをしていて、思わず見とれてしまう。 及川さんは俺が移した風邪のせいで苦しんでいるのに、何ドキドキしてんだ。バカか俺! 心の中で悪態をつきながら、彼の額に手を当てた。 それは汗でしっとりとしていて、やっぱりとても熱かった。 「及川さんアチィですよ……」 「え~? そー言えばなんか頭痛いよーな。 ついでに、喉も痛い……」 掠れた声でそう囁いてから、俺の方へと手を伸ばして頬に触れてきた。 すごく熱くてでも優しい感触に、心臓がますます騒ぎ出す。 「トビオちゃんは大丈夫?」 「あ、お、俺は何ともないです……」 「フフ……良かった… 風邪ぶり返したらどーしよーかと思った。 昨日すごい激しくしちゃったしね……フフフ……」 彼の恥ずかしい言葉に、風邪じゃないけど顔がどんどん熱くなっていく。 そんな俺の反応に及川さんは楽しそうに微笑んでから、俺の頬を優しく撫でてこう言った。 「トビオちゃん……約束してほしいことがあるんだ」 「約束っすか?」 「そ、約束。 俺達どんなことがあってももう、隠し事はなしにしよ。 飛雄は俺が女の子にモテて、いつか女の子を選んで自分は捨てられると思ったから、勝手に不安になってたんでしょ?」 「……ハイ」 「距離おいて、擦れ違って…… お前の悲しみも、何に悩んでるのかも分からなくて、好きなのに分からなくて 混乱して、情けなくて悔しいって思った。 飛雄もそうだったと思うけど、俺だってお前と擦れ違ってしまったあの日からずっとすごい不安で、寂しくて悲しかった……」 及川さんは真っ赤な顔でユラユラと瞳を揺らしながらも、俺の頬を両手でしっかりと包み込んで逸らさず真っ直ぐ見つめてきた。 「好きだからお前の全てを知っておきたい。 お前にも俺の全てを知っててほしい。 不安も悲しみも、喜びも全て知って分かち合いたい。 そう思うのっていけないことかな?」 絶対いけないわけない 相手の全てを知って、今よりもっとずっと近付きたい。 そう思ってるのは俺も一緒で 「だからね飛雄、約束して……」

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