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第155話
放課後になり部活が終わって俺は、及川さんが心配で青城へと迎えに行くことにした。
熱下がったっていってもまだ本調子じゃないだろーし、いつもは及川さんが来てくれるから今日は俺から行ってあげたい。
“君達からかって遊ぶと面白い”
月島は俺をからかって遊ぼうとしている……クソ腹立つ
だから月島が着替え終わる前に素早く着替え、部室を飛び出し青城まで猛烈ダッシュした。
及川さん早く出てこねぇかな……
ソワソワしながら青城の校門前でウロウロ行ったり来たりしていると、ずっと待ちわびていた人
及川さんの声が耳に届いてきた。
それと一緒にもう一人、聞きたくなかった声も……
慌てて学校の方へ目線を向けると、そこには及川さんと新藤さんが言い合いをしながら二人揃って、校門へと早歩きで向かってきていた。
「ちょっと梓ちゃん! 付いてこないでよ!」
「えーーいーじゃん、行くとこ同じなんだからさ」
「ハァ!? 飛雄のとこには行かせないよ」
「徹がなんと言おうと私はとびおに会いに行きますよーだ! ベェーーーーアババババババ!」
「ブッハっっ! ちょっと何その変顔!
女の子がそんな変な顔しないの!
本当に面白いね梓ちゃ~ん。アハハハハハー」
「あーー徹笑ったぁー! ハイ、徹の負けー!」
「は? 何これ、にらめっこだったの?」
ケンカしてるように見えて、なんか楽しそう……
俺こんなに近くにいるのに、及川さん全然気づいてねーし。
あの時の新藤さんの言葉を思い出す
“ゴメンねとびおのこと利用したんだ。
どんな最低な奴だって思われても、徹の心の中に在り続けたい。
少しでもあの綺麗な瞳に私をうつしてほしい”
今二人が言い争っている原因、それは俺の所に二人で向かおうとしてるからなんだよな?
言い争っているこの瞬間も、及川さんは新藤さんを瞳にうつしているわけで……
これって……もう、また利用されてる…?
とびおのことまた利用するから────
心臓が早鐘を打ち出し、背中にじんわりとした嫌な汗が滲む。
新藤さんはやっぱり及川さんがまだ好きで……
でも、俺はもう及川さんを信じるって決めたんだ。
大丈夫……大丈夫
「あっ、とびお! とびおじゃーん!」
「あっ! 飛雄!」
俯いて心中で必死に言い聞かせていると、新藤さんが大きな声を出してこちらに手を振ってきた。
新藤さんより先に及川さんに気づいてほしかった。
「何なにぃ? 私に会いに来たんだ?
私も丁度会いに行くところだったよ♡」
「はぁ? 飛雄は俺に会いに来たの!
飛雄、烏野で待っててくれれば良かったのにぃ~
あっ、もしかして俺が来るまで待ちきれなかったの?
本当に飛雄は及川さんが大好きなんだねぇ~♡」
「違いますー! とびおは私のことが大好きなんですぅー!」
「ハァ!? 飛雄は俺のことだけが大好きなんだよ!」
風邪が心配だったからって言おうとしたのに、二人はまた会話を始めてしまった。
それがなんだか楽しそうで、胸がますますモヤモヤしだした。
「もぉーー徹うるさい!
ね、とびお! 徹なんてほっといて私と帰ろ♡」
新藤さんはいつもより高い声を出して、俺の腕を引っ張ってきた。
そんな新藤さんの行動を阻止しようと、及川さんが新藤さんの反対側の腕を掴んだ。
「何可愛い子ぶってんの?!
飛雄に触んないでよね!」
どうせ止めるなら、俺の腕を掴めばいーのに……
及川さんには俺以外の人に触れてほしくなんかないのに、簡単に触れやがって。
これぐらいのことでもイライラするなんて、俺は及川さんの言う通り彼のことが本当に大好きなんだって思い知らされた。
それがなんか恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのがバレない様に俯く。
「飛雄、どーしたの?」
そんな俺に気付いた及川さんが、顔を覗き込もうとしてきた。
気付くならもっと別のことに気付いてくれよ!
なんて心中で悪態をついて顔を背けようとしたその時、新藤さんが俺の腕をグイグイ引っ張って歩き出した。
「ホラ、とびお帰るよ」
「え、あっ、ちょっと!」
「あっ! 待ちなよ梓ちゃん!」
なんだよこれ!
こんなモヤモヤの状態で、3人で帰ることになるなんて。
あり得ねーよ……
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