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第156話

「梓ちゃん! 飛雄に触らないでってば!」 「ヤダーーっ! とびおは私のなの!」 歩きながら今もまだ二人は、言い合いを続けている。 俺を取り合っているように見えて、実はそうじゃない。 俺と新藤さんが及川さんを取り合っているんだ。 そうとも知らずに及川さんは、新藤さんへ敵意を剥き出しにさせて睨み付けている。 これは完全に彼女の思う壺だ。 利用、されている…… 「ねっ、とびお。恋人みたいに手ぇ繋ごっ♡」 「は? ちょっ!」 新藤さんが及川さんの方へと視線を向けたままニコニコと笑って、俺の手をギュッと握ってきた。 そんな彼女に、めっちゃくちゃ深く眉間にシワを寄せる及川さん。 「ちょっと! だから飛雄に触らないでって言ってんでしょ! 飛雄と手を繋ぐのはこの及川さんなの!」 「えーー私、誰かに手を繋いでてもらわないと、ドジだから転んじゃう~」 「ハァ?! 子供じゃあるまいし、何言ってんの?」 「子供でも何でも良いから、手ぇ繋いでてねとびお!」 そう言って俺の手に指を絡めながら身体を寄せて、ピトっと密着してきた。 その光景に及川さんは眉間にシワを寄せたまま、口を思いっきり歪ませた。 そして、強引に俺と新藤さんの間へと割り込んで来て、手を強く握ってきた。 俺の手だけじゃなく、新藤さんの手も一緒に…… 「飛雄とは繋がせないよ。 そんなに手を繋ぎたいなら、俺が繋いでやるよ! 飛雄の手は俺だけのものだよ。ざまぁみろ!!」 は? 何やってんだよ及川さん!! 全然ざまあみろじゃねーよ! 何新藤さんと手繋いでんだよ! 完全に新藤さんの思う壺になってんじゃねーか。 「えー何で徹と手を繋がないといけないのぉー? 三人で横一列に並ぶとかなんか恥ずかしーよ!」 「確かに恥ずかしいから梓ちゃんは離してやるから、どっか行ってくれる?」 「ヤーダー、とびおと繋ぎたーい! どっか行くなら徹が行ってよぉー」 「なんで俺が行かないといけないの?! ラブラブカップルの邪魔してるっていい加減気づいてよ!」 「えーー、仕方ないなぁ。ラブラブカップルの邪魔するために、徹と手ぇ繋いでてあげるね♡」 「クッソ生意気……」 二人は俺のことを無視して、ずっと言い合いを繰り返している。 新藤さんは口では文句を言いながら、楽しそうに口角を上げて、とても嬉しそうだ。 及川さんと話したいのに、全然話せてない。 俺も及川さんと手を繋いでいるのに、なんだか俺だけ二人とは別の場所に居るみたいな悲しい感覚がした。 しばらく二人の言い争いを複雑な気持ちのまま聞きながら歩いていると、及川さんが突然十字路に差し掛かったところで立ち止まって新藤さんの手を離した。 「梓ちゃんはあっちだよね? 俺達はこっちだから、ここでお別れだね。 じゃあねバイバーイ!」 ニヤニヤ笑いながら新藤さんに手を振る及川さん。 あ、新藤さんの家は俺達の家とは反対方向なんだ? ホッと安堵のため息を吐く。 これで二人で帰れる……なんて思っていたけど…… 突然新藤さんが素早く動いて、また俺の腕を強く握ってきた。 「ヤダ! 女の子を一人で帰らすつもり!? とびお、男なら家まで送ってよ!!」 「ハァ?!!」

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