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第158話
あの後及川さんはずっと機嫌が悪い。
俺の前を何かブツブツ言いながら歩いていて、俺はその後ろを追うように歩いていた。
及川さんは俺が新藤さんにまたキスされたから怒ってるんだろーけど、俺だってモヤモヤしてるんだ。
俺と新藤さんに手を繋いでほしくなかったって気持ちは、痛いほど分かる。
だって、俺もあんたと新藤さんが手を繋いでるのを見た時スゲー嫌だった。スゲーモヤモヤしたから。
暫く会話のないまま進んでいたが、突然帰る途中にある公園の前で及川さんがピタリと立ち止まった。
「……あ、あの……どーしたんすか?」
「飛雄。ちょっとこっち来な」
及川さんは低いドスの利いた声でそう言い放ってから、早足に公園内へと入って行く。
滑り台と砂場、鉄棒と公衆便所があるだけの小さな公園。
そこには誰も居らず、静かな不人気な公園だった。
こんなとこに何しに行くのだろーか?
滑り台で遊ぶのか?? え? 男子高校生二人が?
なんて考えながら彼の後ろを付いていくと、及川さんは公衆便所の方へと突き進んで行く。
あ、なんだ便所か……だったら俺は付いていかなくても適当なとこで待ってればいーか?
なんて思ってたけど及川さんは便所には入らず、その裏側の、更に誰も立ち入らないような所へと進んで行った。
「え? あの、及川さん? そんなとこで何を?」
「何を? そんなの決まってんじゃん」
不思議に思いながら及川さんに近付いた俺の腕を強引に引っ張って、彼は便所の壁に俺を叩き付けた。
「イっ!! てぇ~~……なにす…………」
背中に衝撃を与えられて反射的に文句を言おうとした俺の言葉は、それを許さないと言わんばかりに及川さんの唇によって封じ込められた。
突然のことで俺はどうしたら良いか分からず、ただ目を泳がせて固まっていると、及川さんの熱い舌が俺の口内へと忍び込んできた。
「んぅっ!! ……ん……ンン、フ、ぅぅ…ん……」
口腔を乱暴に掻き回し、舌を何度も吸い上げられ弄ばれる。
及川さんと自分の舌が熱く絡み合う度、そのヌルリとした感触が気持ちよくて……
ここは外なのに抵抗も忘れて、俺は恋人との甘い口付けを十分に堪能してしまった。
「う、ふう、んぅ…んっ! …ぷはっ……ハァハァ…………」
最後に強くヂュっと吸い上げた後、及川さんは唇を解放する。
俺は肩で息をしながらボヤけていく視界を閉ざして、この甘い感覚を与えてくれた恋人の背に腕を回して肩口に顔をうずめる。
「及川さん……」
愛しさいっぱいに彼の名を呼ぶ……
だけど彼から発せられた次の言葉は、決して甘いものではなかった。
「飛雄……これはお仕置きだよ」
「え?」
お仕置き……? なんで……
そっと顔を上げて彼の表情を窺い見ると、それは冷たく、鋭い瞳でまっすぐに俺を見つめてきていた。
なんでそんな顔でこっちを見るんですか?
怖くなって及川さんから放れようとしたけど
後ろには壁、正面には及川さんが立ちはだかって背後の壁に手をついている。
完全に身動き出来なかった。
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