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第173話

走った、ただ一目散に 校門の前で一際背の高い、鍛え上げられた逞しい背中を見つけた瞬間俺は声を張り上げた。 「及川さん!」 「! 飛雄……」 振り返ってくれたお待ちかねの人は、俯き加減の似合わない不安顔をしていた。 「…………」 「…………」 絶対来てくれないって、本気で怒ってると思ってたのに 来てくれて嬉しかったのに…… 何て声をかけたら良いのか分からなくて、俺はただ俯いて声を待つ。 それなのに及川さんも何も言ってくれなくて。 ヤベェ……何か言わねーと! でも何て? 目をさ迷わせて、会話の鍵を探す。 そんな俺に及川さんはどう思ったのか、小さな笑みを見せてくれた。 その綺麗さに耳が熱くなったのを感じた。 「お前が言ったんだよ、謝らないと口きかないって。だから俺からは何も喋れないじゃん」 な、なんだよそれ……じゃあ及川さんは謝る気0ってことか? 及川さんがあんなところでヤらなかったら、今日だって月島にあんなからかわれずにすんだのに。 及川さんが悪いのに……! 「……謝ってくれないんすか?」 「俺が悪かったら謝るけど、悪くないし」 「じゃ、じゃあなんでここに来たんすか? 謝ってくれる気があったから、来てくれたんじゃないんすか?」 「違うよ! 俺は飛雄の彼氏だから迎えに来たんだよ! 当たり前でしょ!」 その言葉にドクリと鼓動が大きく音をたてた。 嬉しい……来てくれるかずっと不安でいたけど、 そっか 及川さんは俺の彼氏だからここに来てくれたんだ。 迎えに来てくれることが当たり前なんだ…… それが嬉しくて仕方ないのに、謝ってくれないことが悲しくて。 「なんで謝ってくれないんすか? 及川さんがあんなところでヤったから、俺は月島にからかわれて大変なのに……」 自然と低くなってしまう声に対して及川さんは、さっきの綺麗な笑みを消して苛立ちを含んだ大きなため息を吐いた。 「じゃあ何飛雄はさ、俺があそこでヤらなかったらメガネくんにキスされなかったし、からかわれなかったって言うの?」 「そーっす!」 「じゃあついでに言うと、飛雄があの時梓ちゃんを送ろうって言わなかったら、キスだってされなかった?」 「は? 言ってる意味が分かんないんすけど?」 「もぉーーだから分かりやすく言うと、あの時ヤっていようがいまいが、送っていようがどうしてようが、飛雄はどの道二人からキスされてるってことだよ!!」 「えっ!? なんでっすか??!」 「もぉーーーーなんで分かんないのぉ?!! だーかーらー……」 「僕から分かりやすく説明すると、二人は早く別れた方が良いってことですよ」 突然誰かが及川さんの言葉を遮って、俺の髪を掴んで引っ張ってきた。 俺をこんなイライラさせることを言って、やってくる奴はあいつしかいない。 「いだだだ!! やめ、イテーだろ月島!」 「ごっめ~~ん王様。君の髪の毛がサラサラしすぎてムカついちゃってぇ~ 本当に王様は僕をイラつかせる天才だね」 「あぁ!? この髪は生まれつきこうなんだ! テメーこそ俺をいつもいつもイラつかせやがって!」 「え? 君もイラついてたの? 気がつかなかった~ごめんね~王様~」 二人でギャーギャー言い合いを始めていると、及川さんが俺にも聞こえるほどの舌打ちをして、月島から俺を離れさせた。 「言ったそばからこれだよ……バカ飛雄! つーかメガネくんもただ単に、飛雄の髪を触りたかっただけでしょ?」 「何言ってんのか僕もバカだから全然分かりませ~ん」 「何ちゃっかり僕もとか、飛雄と自分が同じなんだみたいな言い方してんの? なんかムカつくんだけど」 なんて今度は二人が言い合いを始めてしまう。 これって前と同じ展開のよーな……? せっかく及川さんが迎えに来てくれたのに、なんでまた俺は二人の睨み合いの真ん中にいるんだ? それよりも一番の問題は、結局及川さんと仲直り出来なかったってことだ。

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