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第175話
他に誰もいない部室……
愛しい人の迎えを心待ちにしていた俺の前に現れたのは……
「……月島」
愛しい人ではなく、今一番会いたくなかった人物だった。
「お前、帰ったんじゃなかったのかよ……?」
「戻ってきた」
「は? んで?」
「なんでだと思う?」
いや、分かんねーから聞いてんだけど。
首を傾げた俺に月島は、あのいつもの意地悪い笑みを浮かべた。
嫌な予感しかしない……
嫌がらせされる前にさっさと逃げた方が安全かもしれない。
月島の意味有り気な笑みを無視して立ち上がり、エナメルバッグを引っ掴んで出口へと急ぐ。
「待ちなよ王様」
ドアノブに手を伸ばしたその時、
月島の静かな声が耳に届いたと思った時にはもう、俺は後ろから抱き締められ身動きがとれない状態だった。
「なっ! んだよ月島?!」
背中越しに伝わる体温に自然と速くなる動悸、混乱と戸惑いに目を泳がせた。
どうすれば良いのか分からず微動も出来ない俺にどう思ったのか、月島は小さく声を漏らして笑った。
その耳にかかった生温い感触がくすぐったくて、思わず肩を竦めてしまった。
「何王様、耳弱いの?」
「バッ! そんなわけ……あっ、や、やめっ、ちょっ、んあっ!」
楽しそうな笑い声の後、そっと輪郭にそって耳を撫でられ、身体が反応してビクビクとわなないた。
ヤベ……変な声出た!
慌てて口を押さえたけど、出てしまった声を飲み込むことなんて出来ず、バッチリ月島に聞かれてしまった。
「エッロい声……やっぱり耳弱いんだ……」
「よ、弱くねぇ!!」
「ハハ……こんなに反応してんのに弱くないとか……嘘ばっかり」
「ほ、本当に弱くなんか……あぁっ! 止めろ、つ、月島ボゲェ! んやっ……ぁ…ん……」
耳たぶを甘噛みされ、もう片方の耳も優しく撫でられ、俺は堪らず声を出してしまう。
舐められたり容赦なく与えられる耳への攻撃に、抵抗したくても身体に上手く力が入ってくれない。
「ん、あ……や、あっ……月島、ダ、メ……あぁっ…」
「本当にエロいね……この声、ずっと聞きたかったんだよね。
もうちょっと聞かせてよ王様……」
そう耳元で囁かれ、またビクビクと反応してしまう。
聞きたかったって、何言ってんだコイツ!
早く逃げないと、本当にヤバイ……
出ない力を振り絞ってなんとか逃げようとする俺に月島は、また耳に舌をゆっくり這わせてきた。
「……あっ……」
「ねぇ王様、試してみない?
大王様と僕、どっちが上手いか」
「は? 何言って……」
「気持ち良くしてあげるよ……ね、王様」
艶かしい声で囁かれた言葉
その瞬間、背筋に汗が伝ったのが分かった……
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