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第177話
会いたい……早く 早く!
校門へと向けた足を更に加速させる。
絶対及川さんは待ってくれている
崩れそうなこの想いを残らず全て、受け止めてくれるはず
及川さん 会いたい
及川さん!
「及川さん!!」
校門が見えた途端、全力で走りながら俺は声を張り上げた。
姿は見えなかったけど、来てくれてるって確信してたから。
だから迷わず彼の名前を呼んだ……
「及川さん!」
「飛雄!?」
やっぱり来てくれてた……
俺の姿を見た途端驚いたような、でもはにかみながらも嬉しそうに笑ってくれる。
そんな可愛い愛しい人の胸の中に、躊躇することなく飛び込んだ。
「うわっ飛雄! ビックリしたぁ~……
そんな俺に会いたかったの?」
弾んだ声に恥ずかしさを感じながらも、背中に腕を回してギュウッと抱き付いた。
大好きな香りを胸いっぱいに吸い込む。
あぁ……及川さんの匂いだ……
不安だったこと、モヤモヤしたことみんな忘れさせてくれる……
またギュウッて強く抱きしめて、温もりをずっと感じていたい。
「飛雄、待たせてゴメンね……」
及川さんは優しい声で、手付きで、頭を優しく撫でてくれた。
あったかい
及川さん…… 好き…
広い胸にうずめた顔を上げて、瞳を真っ直ぐ見つめる。
「飛雄、どしたの?
すごい真っ赤な顔して、目ぇうるうるさせちゃって……すごい可愛い
なんかエッチした後の顔みたいでドキドキする……」
「……っ!!」
優しい笑顔で言われたその言葉に、俺は大きく目を見開いた。
エッチした後の顔みたい…………?
及川さんのその言葉に、心臓がうるさいほど痛いほど、大きく脈打ち始めた。
苦しくなって思わず胸を押さえ、背中にビッシリと嫌な汗が浮かんだ。
及川さん以外の人に……月島に触られた。
別にエッチしたわけじゃないし、月島が無理矢理触ってきただけ
でも
それでも心苦しくて……
月島に触られて感じてしまった自分が情けなくて、腹が立って。
及川さんのメールのお陰で助かって、嬉しかった……けど、
こんな自分が及川さんに抱きしめられる資格なんてあるのか?
「飛雄? どーしたの?」
目を泳がせて微動もしない俺に、及川さんが不思議そうに首を傾げた。
心配そうな顔に胸が痛む。
「なんでそんな悲しそうな顔してんの?
及川さんに言ってみな?」
「あ、あの……えっと……」
今も目が自然と泳いでしまうのを止められず、混乱で何て言えば良いのか分からない。
そんな俺を及川さんは、ギュッと抱きしめてくる。
「どーしたの? 言いにくいことなの?」
「あ……その…」
「飛雄……あの時俺言ったよね?
俺達の間に隠し事は無しって。
だから、怒らないからちゃんと言って……?」
及川さんの真剣な、でも不安そうな瞳にますます苦しくなった。
こんなこと何て説明すれば良いか分からない。
それでも、及川さんとの約束を破るなんて、そんなことしたくない。
不安そうな顔するなよ。
俺、あんたを裏切った。
それでも約束守るから、だから……
「及川さん……俺……俺……月島に……」
「メガネくん? メガネくんがどーしたの?」
「つ、月島……さわ、られ……」
「え? 何?」
やっぱり俺なんかが、及川さんに抱きしめられる資格なんてない!
「ごめ、ごめんなさい!!」
声を張り上げて、及川さんの胸を押して、彼から離れた。
そんな俺の行動に及川さんはビックリしたように目を見開き、そしてまた悲しそうに顔を歪めた。
「と、飛雄……」
「俺……及川さんを裏切った!
ごめんなさい!!」
裏切ったとそう言葉に出した途端、それが悔しくて
視界がどんどん滲んでゆく。
及川さんの顔が見えなくて、きっとまだ悲しそうな顔してるんだ。
そんな顔にさせた自分が情けなくて悔しくて……
頭の中がぐちゃぐちゃになってゆく。
気が付いたら俺は及川さんに背を向けて、走り出していた。
「と、飛雄!!」
及川さんの強声
それでも足を止めることが出来なかった。
逃げるなんて最低だ
及川さんを裏切った
ごめんなさい及川さん、ごめんなさい……
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