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第178話

及川side 喧嘩して、口きかないって言われて…… 俺も意地張って、飛雄が謝るまで許してあげない! なんて思ってたけど…… そろそろ我慢の限界だった。 喧嘩しててもやっぱり会いたいって思うのは俺だけかなって、不安になる気持ちは消せなくて。 毎日だって会いたい、顔見たい 触れたい…… お前も同じ気持ちだったんでしょ? だから待っててくれたんでしょ? 飛雄に抱きつかれて、久しぶりの体温を感じて 真っ赤な顔、潤んだ瞳…… ああ…… 愛しくて堪らない 離れたくない、ずっと抱きしめてこの温もりを感じていたい。 なのに…… 「俺……及川さんを裏切った! ごめんなさい!!」 どんどん遠ざかって行く愛しい人 なんで離れて行くの? お前も俺を求めてたんじゃないの だから抱き付いてくれたんでしょ…… 裏切ったって? なんなの飛雄 行かないでよ! 「と、飛雄!!」 空っぽになってしまった腕を必死に伸ばした でも掴めなくて 早く追い掛けないと、飛雄が行ってしまう 走り出そうとしたその時、後ろから気配を感じた。 振り返ると、メガネくんが眉間にシワを寄せてこちらを真っ直ぐ見つめている。 「……メガネくん」 飛雄の泣き顔 言い淀んだ震えた声 メガネくん…… 「お前、飛雄に何をした?」 逸らさず見据えた彼の表情は、真っ直ぐこちらを捕らえたままだった。 敵意剥き出しのその態度に奥歯を噛み締め、苛立ちを隠せない。 それは相手も同じ 眉間のシワを消さず、鋭い視線を向けてくる。 「答えなよ……飛雄に何をした?」 意識したのよりかなり低い声が出た。 そんな俺にどう思ったのかメガネくんが、さっきまでの固い表情を崩して何故か鼻で笑ってきた。 それに益々苛立ちが募っていく。 「何笑ってんの? 人をバカにするのも大概にしろよ……」 「バカにはしてませんよ。 そんなこと聞いてどうするんですか? 大王様きっと、後悔すると思いますよ……」 「はぁ? どういう意味?」 言葉の意味が理解出来ずに眉を顰めると、メガネくんは口角を上げたまま、また俺を真っ直ぐ見つめて唇を開いた。 「何をしたって、頭の良い大王様になら分かるでしょ? さっき王様が立ち去る前に言ったじゃないですか。 その通りのことをしたんですよ、僕達……」 さっき飛雄が言った通りのこと……? ……裏切った……? あの時飛雄はこう言った。 飛雄とメガネくん……いったい二人は何をしたって言うの? 分からない…… メガネくんが何を言いたいのか、飛雄がどうして泣いていたのか、全く見当が付かない。 全然分からず、ずっと睨んでいた視線を逸らして考え込んでいると、さっきと同じ強い視線を感じて、俺は慌てて目線を彼へと戻した。 その先には、鋭い眼差しでこちらを睨み上げ、勝ち誇ったように怪しく口角を上げたメガネくんが立っていた。 「セックスですよ」 「……え?」 「だから、僕が王様を抱いたって言ってるんです」 その言葉を聞いた瞬間 俺の中で、何かが切れたのが分かった。 「ざけんな!!」 冷静ではいられなかった 強声を張り上げてからの俺は、一直線にメガネくんへと掴み掛かった。 胸ぐらを掴み上げ、鼻先が触れるほどの距離まで顔を近付ける。 メガネくんは苦しそうに顔を歪めながらも、口角を下げることはなかった。 「ふざけてなんかいませんよ。 王様、気持ち良さそうに僕の腕の中で喘いでましたよ」 「でたらめ言うな!」 「僕が嘘をついているとでも? じゃあなんで、王様はあなたから離れて行ったんですかね? あなたなんかより僕の方が良かったから、もうあなたとは一緒に居たくないから、去っていったんじゃないんですかね」 俺よりもメガネくんの方が良い……? 俺の中の飛雄が……笑いながらどんどん遠ざかって行ってしまう。 飛雄……メガネくんと本当にセックスしたの? 俺とヤるより気持ち良かったの? だから、泣いてたの? 嘘だ! 信じない……メガネくんがでたらめ言ってるだけだ! 「セックスしてる時の王様可愛かったですよ。 何度も何度も僕の名前呼んで、しがみついてきて……」 「でたらめ言うなって言ってるだろ!!」 メガネくんが言ってることを信じたくなくて、俺は思いっきり拳を振り上げた。 「殴るんですか? 殴りたいならお好きにどーぞ?」 「……っ!」 そう言って笑ったメガネくんを見た瞬間、 突然、脳裏にあの時の飛雄の顔と言葉が浮かんできた。 『暴力はダメです! 嫌です 及川さんがバレー出来なくなるの!』 「飛、雄……」 「? なんですか? 殴らないんですか?」 「…………殴らないよ…… 飛雄が嫌がることは絶対しない……」 飛雄……俺が誰かに暴力を振るったら、お前は悲しむ? うん……絶対泣くだろーね 俺は、飛雄が悲しむことは絶対しないよ 穏やかな気持ちでそっと胸ぐらから手を離し、メガネくんを解放した。 「俺は、飛雄のことが本気で好きだから、例え飛雄が俺じゃなくメガネくんを選んだとしても、絶対諦めない。 メガネくんなんかより、俺の方が絶対飛雄に相応しいってこと分からせてやる! メガネくんにも誰にも負けないから!」 そう言って俺はメガネくんに笑顔を向けてから、手を振ってその場を背にする。 飛雄…… 誰にもお前を渡さない お前はずっと俺の傍にいなくちゃいけないんだ……

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