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第179話
及川side
真っ赤な顔、潤んだ瞳……
愛しそうに抱きしめてくれたあの温もり、感触を、
もう一度欲しいと願い手を伸ばした。
空を掴んだ、惨めな気持ちをそのままにするなんて
振り向かず走っていれば良かったなんて、今更後悔しても馬鹿げたことなんだって分かってる。
あいつがなんと言おうと、
俺は絶対、飛雄を諦めない。
例えお前が他の誰かを選んで、俺から離れて行ったんだとしても
逃げても次こそは掴み取るって心に決めている。
俺は今日もお前を迎えに、烏野へ会いに行く。
なんて一人で頷いて廊下を歩く俺の前方に、明らかに悩みに染まった顔でこちらへと向かってくる親友の姿が映った。
何かの紙を二枚持って、見つめながら歩く。
眉間にシワを寄せているのはいつものことだけど、微かに眉が下がっている。
似合わないねその顔……
俺はニンマリと笑いながら、ゆっくりと岩ちゃんに近付いた。
そしてその二枚の紙を、素早く奪い取ってやった。
やっぱりいつもと違い隙だらけの岩ちゃん。
「えっ!? あっ!!
ボゲェックソ川ぁ!!!!」
「へへ~ン、もぉ~らいっ!」
「返せクソボゲカス川!」
「どーしたの岩ちゃん? こんな簡単に奪われるなんてらしくないよぉ?」
「うっせぇ! いーから返せボゲェ!」
「ウグッ!」
容赦なくみぞおちを殴られ前屈みになった隙に、奪い返される。
苦痛に咳き込みながら、その紙がなんだったのか確認しようと目線を向けた。
白の紙にピンクで鮮やかに書かれたその文字に、俺は思わず笑みを溢す。
「ベ○ーランドのチケット!
どーしたのそれ?」
「……親父の会社の人が行けなくなったとかで、譲ってくれたんだとさ……」
「へぇ~……で、誰と行くの?」
「だ、誰って……!」
そう言った途端岩ちゃんの顔が、見る見るうちに赤く染まっていった。
「あーー! 顔真っ赤ぁ~♪
へ~~岩ちゃん誘う女の子いるんだぁ?」
「は、はぁ!? い、いねーよボゲェッ!」
「本当、隠し事出来ないよね……早く誘ってきなよ。
岩ちゃんに誘われたら、どんな女の子でもきっとOKしてくれると思うよ♪」
「…………いや、誘わねぇ……」
「え? どーして?」
歯切れ悪く目を逸らす岩ちゃんに首を傾げる。
岩ちゃんは一つため息を吐いた後、俺を一瞥してからまた大きなため息を吐いてきた。
な、なんなのさ?
「これお前にやる!」
「え? なんで?」
「いーから! お前、影山とは仲直りしたのか?」
「……まだ、だけど…………」
「まだしてなかったのか! このノロ川!
これで影山誘って、さっさと仲直りしろボゲェ」
「え……でも、女の子誘わなくていーの?」
「……俺は……いーから影山をデートに誘ってこいよ。
これ期限日曜までだし、こーゆーのがあった方が誘いやすいだろ?」
「でも……岩ちゃんは岩ちゃんで誘いたかった女の子がいるんでしょ? だったら……」
「だって、アイツは……おっ……っ…」
「岩ちゃん?」
「その、なんだ……俺はお前みたいにウジウジしてねーからな、こんなもんなくったって誘えるんだよ!」
「……そっか……そーだよね、岩ちゃんなら大丈夫だよね。
うん、ありがと。これ使わせてもらうね!」
「おう! 頑張ってこいよ!」
「岩ちゃんも頑張ってね!」
チケットを受け取って笑って見せたけど、岩ちゃんの笑顔はぎこちなかった。
「応援してるからな、及川」
岩ちゃんには岩ちゃんの悩みがある。
それでもこうやって背中を押してくれる岩ちゃんがかっこよくて。
だから、頑張らなくちゃなって思う。
いつも助けてもらってばっかだね……
ありがと岩ちゃん
次は、俺が助けたいな
岩ちゃんがもし本気で悩んでしまった時は、俺に相談してほしい。
「俺も、俺も応援してるから!
頑張ってね岩ちゃん!」
「……ハハ! うっせぇボゲ川!
でも、サンキュー!」
そしたらさ、絶対力になってあげるから
ね、岩ちゃん!
そう心に誓った時、岩ちゃんがニカッと笑った。
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