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第180話
強く呼ばれた、最後の声が頭から離れない。
まさか、自分から背を向けることになるなんて、信じたくても信じられない。
許されるならあの温もりの中に、ずっと居たかった……
「おはよ王様。昨日はどーも~……」
早朝靴箱。
聞きたくなかった月島の声が耳に届き、自然と顔を顰める。
運悪く周りには誰もおらず、こういう日に限っていつもうるさい日向はまだ来ていない。
あんなことしたくせに、声かけてくんなよ……
内心舌打ちをして、顔を合わせずその場を後にしようとした俺の肩を、月島が乱暴に掴んできた。
「いてーよ、離せボゲェ……」
「こっち見たらね」
「離せつってんだろ!」
声を荒らげ月島の手を打ち払ったその時、強引に引っ張られ靴箱に身を叩き付けられた。
静まり返った校内に派手な音が響く。
痛みに顔を歪めた俺に、月島がいつもの腹立だしい笑みを見せてきた。
「逃げようとするからだよ」
「テメーふざけんなよ!」
「ふざけた覚えはないよ。
昨日……大王様に僕達のこと言っちゃった」
「は?」
突然出てきた名前に、嫌な汗が頬を伝う。
お、及川さん? コイツ及川さんに何を……?
どんどん歪んでいってしまう表情を戻すことが出来ない俺に、また意地の悪い笑みを浮かべる月島。
「だから~大王様に僕達がセックスしたってこと言っちゃったんだよ……
その後の大王様の顔! 思い出しただけで笑える」
「な、何言って!
昨日はお前が無理矢理触ってきただけで、別にセックスなんてしてねーじゃねーか!」
「あんな気持ち良さそうな声出してたくせに……」
「ッ!」
「ハハ……ねぇ王様、また聞かせてよ」
そう言った途端月島は、俺の制服のボタンに手をかけてきた。
「な、何する!?」
「さてなんでしょう?」
「なんでしょうじゃねぇ! や、止めろ!!」
手を掴んで止めさせようとしたが、それよりも早く襟元をはだけさせられる。
「なっ! ちょっ、月島!?」
必死に身体を揺すり踠いて抵抗するが、背中の靴箱が邪魔して上手く動けない。
「や、やめ、月島!」
笑いながら顔を寄せてきた月島を突き飛ばそうとしたその時、胸元に小さな痛みが走った。
「イッ!」
突然の痛みに驚いて、強く目を閉じた俺から月島が身を離す。
「な、なんだ今の? お前何した?」
「後で鏡見てみれば分かるよ」
「鏡?」
「それを見た時の大王様の反応……楽しみだね」
なんて笑って手を振りながら立ち去って行く月島を、首を傾げ見つめる。
なんだったんだ今の?
さっきちょっと痛かったけど……今はなんともねぇ……
あいつ、何がしたかったんだ?
「あっ! 影山くんオハーース!!」
今も首を傾げ立ち尽くしていた俺の肩を、後ろから近付いてきた日向が叩いてきた。
「あ……オッス日向……
じゃねーよ! おせーんだよ日向ボゲェ!!」
「いってぇぇぇええぇぇ!!
な、なんだよ! 別に遅刻してねーだろ!!」
「うっせぇボゲェ!!」
何度も日向の頭を叩きながら、それでも混乱は消えなかった。
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