184 / 345
第183話
約束の日曜日……
俺は及川さんがくれたチケットで、ベニ○ランドへ足を踏み入れた。
子供の頃両親に連れられよく遊びに来ていたけど、こんな緊張した気持ちで来たのは初めてだ。
ゲートを潜ったところで、すぐ及川さんを見つけられた。
だって……及川さんの姿を俺が見間違えたりするわけない。
恋しくて、ずっと見つめて逸らせなかったあの姿。
焼き付いてもう離れたりしない……
「……及川さん」
名前を呼ぶだけで、あなたと目が合うだけで胸が高鳴ってゆく。
「飛雄……良かった、来てくれた……」
目を細めて安心しきった笑みを浮かべて、こちらに近付いてきた及川さんに胸が締め付けられた。
あなたは、俺がもし夜になっても来なかったら、どうするつもりだったんだろうか。
それでも不安な気持ちを押し込めて、ずっと待っててくれたんだろう。
そう考えただけで胸が苦しくて、同時に涙が滲みそうになった。
「あの……スゲェ待ちましたか?」
「ずっと待ってるって言ったでしょ。
飛雄のためなら一日でも、一週間でも一年でも待てるよ……」
「……っ!」
あの時と、あの初デートの時と同じ言葉……
本当にこの人は……
俺も言いたい。
あの時、俺が言った言葉……
スゲェドキドキして、及川さんとのデートが楽しみで嬉しくて、そんな時にあんなこと言われたら、俺がどう答えるかなんて決まってる。
その言葉しか思い付かなかった。
あの時のあの言葉……言いたい……俺も言いたいのに、今の俺にその資格はない。
「そんな悲しそうな顔しないで?
俺……飛雄が来てくれただけで、メチャクチャ嬉しいんだからさ。
飛雄……俺はお前に早く会いたかった……」
今度はあの時の俺の言葉……
及川さん、俺も、俺も
「お前も同じ気持ちだったから、来てくれたんでしょ?」
「及川さん、俺……」
「喧嘩してても、擦れ違ってても、気持ちは一緒。
そーでしょ?」
「及川さん」
「だって俺達、付き合ってんだから。
恋人同士なんだから、気持ちが一緒で当たり前!
そーでしょ? ね、飛雄」
ずっと一緒……付き合い初めた時と、初デートの時と同じ……気持ちは変わらない
「飛雄、手!」
「あ……」
及川さんが満面の笑みを浮かべて、手を差し伸べてきた。
「繋ぎたい……飛雄と手、繋ぎたい!」
あの時……繋げなかった。
繋ぎたくて繋ぎたくて、触れたくて仕方なかった、この手……
今日は、今日こそは……このデートで……
「飛雄、楽しもーよ!
せっかくのデートなんだからさ!」
「お、おい、及川さん!」
緊張しながらそれでも、震える手を伸ばした。
指先が触れて、及川さんの笑顔が深まる。
デート……俺も及川さんと楽しみたい。
少し触れただけじゃ物足りない。
及川さん、強く、握って、握り返して……
ともだちにシェアしよう!