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第184話

「そう簡単に上手くいくわけないでしょ?」 伸ばした手を遮り、楽しげなある声が耳に届く。 触れた指先が離れてゆく…… もう少しで繋げたのに、どうして? 俺の身体は、及川さんとは別の方向へ傾いた。 手に彼のじゃない体温が重なる。 どうして……簡単に上手くいってくれないんだ? いつも俺が願ったこととは反対の方へと、物事が進んでいってしまう。 さっきまで嬉しそうに微笑んでくれていた及川さんが、今は眉間にシワを寄せて、鋭い眼光で俺の隣を睨み付けていた。 「及川さ……」 俺はそれでもその別の体温を無視して、及川さんへと手を伸ばす。 「こっち見なよ王様」 低い声と供にそんな俺の手と顎を掴まれて、強引に横を向かされた。 そこには、及川さんに負けないぐらいの鋭い目付きの月島が、俺を真っ直ぐ見つめていた。 「放せよボゲェ……んでお前がここにいんだよ?」 「偶然だね、王様」 目を細めて怪しげに口角を上げる月島から離れようとした時、更に別の誰かに腕を引かれた。 「月島くんばっかずるい! とびお~私もいるよ~」 「新藤さん!」 「あ、梓ちゃん……なんで?」 及川さんの波打った声がその場に響く。 気まずそうに顔を逸らす及川さんに、突然現れた新藤さんが微笑んだ。 本当になんで二人が揃って、こんなところに居るんだ? 今新藤さんにも、月島にも会いたくなかった。 及川さんと二人っきりになりたかったのに、どうしてこんな時でも叶わないんだ? 「喧嘩してるのかと思ったら、こんなとこでデート? 楽しそーだね……私達も一緒いい?」 「え……」 「二人より四人で遊んだ方が楽しいですよ? 王様」 口ごもった俺の耳に二人が唇を近付けてきて、頷けない言葉達を囁いてくる。 「ちょっと二人とも、飛雄に触るなよ!」 俯いた俺を助けようと、及川さんの強声が二人を止める。 そんな及川さんに新藤さんが眉を下げて笑って、それでもまた俺の耳に唇を近付けてくる。 「とびお、今日もよろしくね♪」 その言葉に、顔が歪む。 よろしくとは、つまり今日も利用するということ? そんなの許せるわけない 「新藤さんすんませんが俺……!」 「いーの王様? 断ったら大王様の前で、あの時みたいにしてあげてもいーんだよ?」 「なっ!」 月島が俺の腕をギュっと力強く掴んで、囁く。 及川さんの前で……何をするつもりだ? 嫌な汗が頬を伝う。 「王様って耳弱かったよね?」 「や、やめ、月島……」 月島が喋る度にその息が耳にかかってきて、俺の身体が戦く。 「ふざけんなよお前ら!」 声を張り上げた及川さんが月島の腕を掴んだその時、新藤さんが俺の手を握って歩き出した。 「ちょっ! 梓ちゃん!!」 「行ことびお! せっかくの遊園地だよ? 楽しまないと♪ ね、とびお……」 怪しい笑みを浮かべる新藤さんに引っ張られながら、俺は唇を噛み締めた。

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