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第186話

及川さんの隣が良かったのに、なんでこんなに上手くいかないんだ…… 目の前は二人の頭しか見えないけど、新藤さんがキャーキャー言いながら何か喋ってて、なんだかとても楽しそうに見えた。 ものすんごいスピードで走るジェットコースターに身体を揺さぶられながら、俺はずっと俯いていた。 「王様、怖いの?」 「…………」 急なカーブに身体を傾けながら、それでも余裕そうに笑いかけてくる月島を無視して目を強く瞑る。 「王様にも怖いものがあったんだねぇ~ でも無視は良くないよ?」 「……」 意地悪く話し掛けてくる月島を、それでも無視し続ける。 別に怖くねぇし…… ジェットコースターは得意とまではいかないが、叫んだり泣いたり、気分が悪くなったりしたことはない。 それは月島も同じみたいで、いくらスピードが加速しようが、どんなに険しい起伏が待っていようと、それを反対に楽しんでいるのが丸分かりだった。 コイツには本当に、弱点という物は無いのだろうか? するとそこで、突然コースターの速度が減速し始めた。 不思議に思って顔を上げた途端、フワッと耳に何かが優しく触れて、身体が敏感に震えた。 「ぅあっ!」 「ハハッ、いー声」 「な、何すんだボゲェ!」 慌てて声を荒らげながら前を見ると、コースターがゆっくりと確実に勾配を登って行くところだった。 なんだ、終わったのかと思った…… そう思った時、今度は首筋をスルリと撫でられた。 思わずビクッと肩が跳ねる。 「……ひっ…あ……何する……!?」 「王様が無視するから、こっちを見てもらおうと思いましてね」 そう笑って首筋から耳にかけて、ゆっくり、イヤらしく、撫でてくる。 そのくすぐったい感触に俺は、強く目を瞑って身を捩らせながら、力の入りずらい手で月島の手を掴む。 それでもその動きは止まってはくれない。 「あっ……やっ! やめ、やめろよ、月島っ!」 「だってこれは王様が期待したことでしょ?」 「ん、あ……何、言って? あ…ぁ……」 逃げたくても固定ベルトに阻まれて、上手く身動きできない。 それを良いことに月島は耳朶を摘まんで、クイックイッと優しく引っ張ってきた。 「ん、んっん……あ……んっ!」 引っ張られる感触にもいちいち反応してしまう身体に、嫌気がさす。 「本当はもうちょっと触っててあげたいけど、そろそろみたい」 「ふぁ……え?」 月島のイヤらしい手が離れて安心したのも束の間、グラリと車体が傾いて、 そして次の瞬間にはもう、一気に急坂を落下していくジェットコースターに俺は大きく目を見開いた。 「~~~~っっ!!」 激しい、ものすごい音をたてた風の抵抗を受けて、歯を食い縛り、視界を閉ざさずにはいられない。 なんでだ? 今までジェットコースターに乗った時は、いつも楽しめていた筈なのに……こんな苦しい気持ちになるなんて。 「おかえりなさ~い!」 風が吹き止み、 ジェットコースターがゆっくりと停止するのと同時に、またあの係員の元気な声が耳に届いきて、 固く閉ざしていた瞼を開いた。 「お疲れ~王様♡ 色んな意味でね……」 怪しげに微笑む月島に肩を叩かれ、俺はまた身体を震わせてから、 重いため息を吐いた。

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