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第187話
及川side
なんで飛雄の隣じゃないんだよ、せっかくのデートなのに……
しかも飛雄の隣はあのメガネくんだし、変なことされないか心配で気が気じゃない。
風の抵抗を受けながらなんとか後ろの方を見ると、飛雄は深く俯いていて、顔が見えなかった。
ずっと俯いちゃって、可愛い……
……飛雄、ジェットコースター怖いのかな?
それなら尚更隣に乗って、手を繋いであげて、大丈夫だよって安心させてやりたかった。
そんなことを考えながら、ずっと飛雄を心配していると、突然梓ちゃんが大袈裟な悲鳴を上げ出した。
「キャーーキャーーーーッ!
と、おるぅ~こ、こわ、こわっい! わっ!
キャーーーーーー!!」
その叫びで飛雄へと向けていた意識が、一気に現実へと引き戻された。
スピードがどんどん加速していき、梓ちゃんは更に大きな声で怖がっている。
と言う俺も急なカーブで身体が大きく揺れてしまうと、どうしても漏れてしまう声を押さえることが出来ない。
「うわっ! うおぉっ!!」
「キャーー、わっ!」
激しい起伏、車体が右へ左へと滑走していく中、俺と梓ちゃんはただただジェットコースターの凄まじい威力に翻弄され続けていた。
そんな時、なんの前触れもなしに突然車体が減速していく。
「うぉっ! あ……終わった?」
「わっわっ! と、徹、ま、まだ、まだ終わってない!!」
梓ちゃんの言葉に強く瞑っていた目を恐る恐る開くと、そこには徐々に勾配を登って行く車体があった。
俺達は身体を完全に背もたれに預け、空を見上げている形にさせられていた。
「あ……やばいよぉー徹、私やばいよぉー……」
「ハハ……だ、大丈夫、だいじょう…ぶ…………?」
梓ちゃんを安心させるように、そして自分にも言い聞かせるように大丈夫と繰り返したその時、後ろの方から今まで何回か聞いたことのある、
掠れた甘い声が響いてきた。
「あ……あっ! や、やめ……んっ!」
「この声って……?」
う、そでしょ?
俺の大好きな、最近ずっと聞けなかったこの甘い甘い声……
聞きたくて聞きたくて仕方なかった、とろけるようなこの愛しい声がどおしてこんな所で……?
何が……何が後ろで起こっていると言うんだ?
「あ……と、び……ぉ」
俺は隠すことなく困惑で目を泳がせながら、恐る恐る後ろを振り向こうとしたその瞬間、
「ダメ……徹。そっちじゃない、私の方見てよ」
「……え?」
静かな声が脳内で響く
梓ちゃんの方を振り返ったその時、ジェットコースターの車体がガタンっと音を立てた。
辺りを見渡すと、すでに頂点に達していた。
一瞬時が止まったように感じられたが、次に起こる恐怖を想像した瞬間思わず固唾を呑み込んだ。
「ひゃっ!」
隣の梓ちゃんが小さく上擦った声を出し、顔を落とした。
そして、手に触れた弱々しい温かい感触。
それを目で確認した後、フヮッと顔に風が吹き付け、車体が傾き、徐々にスピードを上げ、
そして……
「ギャアァァァアアアァァアアァァァアアアアアァァァアアアァァアアァァァアアアアアァァァアアアァァアアァァァアアアアッッッッ!!!!」
一気に急降下していくジェットコースター。
すごい風圧で潰されそうになる身体に、思わず強く目を瞑りながら隣の体温を強く握る。
感じたかった温もりと違っても、混乱でどうすることも出来なくて。
もう何もかも……有り得ない
信じたくなかった……
「おかえりなさ~~い!」
スタート地点に到着して、係員の元気な声が耳に届いても安心することなんて出来るわけない。
「と、徹……怖かったねぇ~……」
真っ赤な顔した梓ちゃんが俺に笑いかけてきたのを無視して、俺は勢い良く立ち上がった。
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