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第188話

及川side 混乱はまだ解けないまま だが、そんな自分の心情よりも、ただ飛雄の元へと駆け寄りたかった。 どれよりも、誰よりも速く 「王様、今度はあっち行こっ!」 「あっ、え……つき、し、ま……!」 ジェットコースターから降り立った俺の横を、メガネくんが飛雄の手を強引に引っ張りながら立ち去ろうとするのが視界の端に映る。 その飛雄の横顔は真っ赤で、上手く身体に力が入っていないようだった。 だから好き放題に引っ張られている。 いつもそうだ…… 飛雄は事後、いつも疲れはてて眠るか、真っ赤な顔してボーッと俺の腕の中でじっとしていることが多かったから…… そう考えただけで、カッと頭に血が上っていく。 事後ってなんだよ! そんなの考えたくないのに!! 「メガネくん、待てよっ!!」 そんなの許すわけないだろ! 自然と顔が険しくなるのを押さえることが出来ない。 声を張り上げ、逃げようとするメガネくんを制止しようとするが、そんなので止まるとも思えなかった。 「待てって言ってんだろっ!!」 「あっ、と、徹ぅっ!」 梓ちゃんの声が耳に届いたと気づいてはいたけれど、そんなことに構ってられる余裕などなくて、慌ててメガネくんの後を追い掛ける。 ジェットコースター乗り場から離れてしまい、周囲に広がる人垣を掻き分けながら進むから、どうしてもスピードダウンしてしまう。 それはメガネくんも同じ。 メガネくんに引っ張られている飛雄が、力なくフラフラしていて危なっかしい。 「ち、ちょっ月島! お前止ま、れよ。 放せっ、て!」 「いーから付いてきてっ!」 「放せって! おい、及川さっ、ん!」 「飛雄! 飛雄ぉ!」 赤面なままの飛雄が、メガネくんから逃れるように必死に、俺の方へと手を伸ばしている。 愛しい名前を呼びながら、俺もその手を掴もうと伸ばしたその時、今まで逃げてるだけだったメガネくんが突然振り返った。 「あっ! 新藤さん?!」 「えっ?」 後ろの方を指差し大きな声を出すメガネくんに、俺は目を見開き釣られて振り返った。 そこには肩を上下させて踞る梓ちゃんの姿があった。 「あ、梓ちゃん!?」 「と、徹……待ってよぉ……」 慌てて梓ちゃんの傍へと駆け寄った。 踞って動かない梓ちゃんの背中を、優しく擦ってやる。 「梓ちゃん、大丈夫?」 「私、ジェットコースター終わったぐらいからちょっと気分悪くて……」 「えっ! そーだったの!?」 「でも、少し休めば良くなると思うから……」 「梓ちゃん、ゴメン……」 梓ちゃん気分悪かったのに俺、それを無視して…… 梓ちゃんに無理させちゃったんだ。 「ゴメンね、休めるところに行こ?」 「うん……こっちこそゴメンね……」 梓ちゃんを助け起こし、座れるところを探そうと歩き出す。 だがそこで、 「んじゃあ、新藤さんのことは大王様に任せて、僕達は行こっか?」 「え?」 「あ、ちょっ月島!? ま、待って……!!」 俺が飛雄の方を向いた時にはもう、メガネくんに引っ張られどんどん遠ざかり小さくなっていく飛雄の姿があった…… 「と、飛雄!!」 「徹……ゴメンね……」 いくら手を伸ばしても飛雄には届かない。 梓ちゃんを放っておくことなんて出来るわけもなく、申し訳なさそうな顔をする梓ちゃんに首を振って笑いかけてから、 彼女の身体を支えて、休憩場所へと歩を進めるしかなかった。

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