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第189話
及川side
レストハウスへと梓ちゃんを誘導し、赤い椅子に座らせお茶を買ってくる。
「ハイ。これ飲んだら少しは楽になると思うから」
メガネくんに連れ去られてしまった飛雄のことがものすごく心配だけど、でも今は具合の悪い梓ちゃんに焦ってる姿を見せるのは良くない。
俺は努めて平静を装い、笑顔でペットボトルのお茶を手渡した。
「……ありがとう徹」
梓ちゃんは気まずそうな顔でお茶を受け取ったが、それを飲まずに何故か俺の方をジッと見つめてきた。
「ん? どーしたの? 飲まないの?
あ、もしかしてお茶嫌い?」
「あ……そ、そんなことないよ!
嫌いじゃない! 嫌いじゃないよ……」
首を傾げた俺に梓ちゃんは慌てたように両手を振ってから、今度は俯いて顔を隠してしまった。
お茶飲まないの? や、大丈夫?
など声を掛けたけど、ずっと俯いたままだ。
どおしたんだろう……?
微動も見せない梓ちゃんを心配しながらも、同時に飛雄のことも考えてしまう。
メガネくんに酷いことされてないかな……俺が守ってやらなくちゃいけないのに!
『僕が王様を抱いた』
あの時のメガネくんの言葉と、ジェットコースターでの、飛雄の掠れた甘い声が頭中で渦巻く。
今、二人はどこで何してる?
飛雄……俺の気持ちは何があっても絶対変わらない。
飛雄好きだよ、信じてる!
そう何度も心中で強く叫んでも、この苦しい不安な気持ちは消えてくれなくて……
あぁ……本当に情けない……
気持ちは絶対変わらないよ。
そうハッキリと言える。言えるんだ。
けど……
早くお前を抱き締めて、愛しいあの体温を感じないと俺は……どおしても安心することが出来ないんだ。
「……徹……とびおが心配?」
気が付いたら梓ちゃんが顔を上げて、また不安そうな顔で俺を見つめていた。
心配? そんな言葉じゃあ抑えられないほどだよ。
「心配に決まってんじゃん。
飛雄は俺の大切な恋人だよ。
傍に居ないと不安で心配で、潰れちゃいそう……」
「そっか……そーだよね」
小さく波打った梓ちゃんの声。
瞳が揺らめいたことに気付いて俺は、そこで初めて彼女の気持ちを思い出した。
俺と同じ想いに……
「梓ちゃんも飛雄が心配、だよね……」
俺が飛雄を大切に思い、早く会いたいと思えば思うほど、君も同じことを思い考えてる。
だって、俺達は同じ人を……
飛雄のことが好きだから
「自分のことばっかでゴメン。
梓ちゃんも不安だよね……
だって梓ちゃんも飛雄が好きだから今日ここに、
飛雄に会いに来たんだもんね」
「徹……私……」
二人っきりが良かった。
その気持ちは今も変わらないけど、きっと俺が梓ちゃんだったら、俺も同じように邪魔しに来たと思うから。
本気だから譲れない。
「飛雄は絶対何があっても渡さない!
渡さないけど、心配な気持ちは分かるからさ。
飛雄に会いたいよね?」
「…………」
梓ちゃんはその問い掛けには答えずに、ただただ俺を真っ直ぐ見つめ、瞳を揺らめかせた。
「気分は、もう大丈夫?」
「大丈夫だけど……その……ただちょっと酔っただけだし……」
「そっか……なら、行こっ梓ちゃん!!」
「と、徹……」
「飛雄を迎えに行こう!」
立ち上がって、梓ちゃんの手を上の方へと引く。
梓ちゃんは目を泳がせ、悲しそうな顔をして、それでもゆっくりと立ち上がってくれた。
「飛雄を好きなもの同士、今は協力するけどさ、飛雄に会えたら話は別だから。
絶対負けないからね!」
そう笑って断言してから俺は、梓ちゃんを連れてレストハウスを後にした。
無事でいて飛雄
早くお前を抱き締めたい
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