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第191話

係員の指示に従って、お化け屋敷へと踏みいる。 「うっわ、暗くて全然足元見えないんだけど……」 「そりゃお化け屋敷だからな」 想像していた通りやっぱり中は暗くて、唯一の明かりはぼんやりと光る赤いライトが所々で灯されているだけだった。 隣の月島の姿さえもよく見えない状態だった。 転ばないように慎重に歩を進めていく。 「なんだよ月島、人をバカにしたくせに、お前の方が怖いんじゃねーの?」 「はぁ? そんなわけないでしょ。 王様こそやっぱり怖いんでしょ? 声、震えてるよ?」 「バッ! 震えてねーよ!」 「今の声完全に震えてたよ~ ……うわっ!」 「なっ何だ?!」 鼻で笑いながら人をからかっていた月島が、突然強声をあげた。 その声に肩を跳ねらせて、月島の方へ目線を向ける。 そこには、青いライトで照らされ、角を二本生やした一つ目の鬼が月島の横から飛び出してきた。 「何だよ、ただの鬼だろ? こんなんでデケー声出しやがって、やっぱり怖いんじゃねーか!」 「違うよ! 誰だって突然あんなのが隣から飛び出してきたらビックリするでしょ!」 「素直になれよ、怖いんだろ?」 「そんなわけないでしょ! ビックリしただけだってば!」 「ハハっ! 声震えてるくせに……てっ、うおっ! な、なっギャッ?!」 仕返しとばかりに隣を指差し笑っていると、今度は俺の斜め前から、恐ろしい顔をしたハゲオヤジが飛び出してくる! それに思わず俺も大声を出してしまう。 「ちょっと、うるさいんだけど。 やっぱり怖いんでしょ? そんな声出して」 「び、ビックリしただけだ!」 「僕の真似しないでよ」 「真似じゃねぇ! 本当にビックリしただけだつってんだろ!」 なんて言い合いをしていると、どこからともなく不気味な音が聞こえてきた。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラヒュゥウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥウウゥゥゥウゥゥゥ…… 「な、何?」 「んだ、この音?」 「ウボォォォーーーーーーーーーーーーーー!!」 「ぎぇぇっっ!!」 「のわっ!!」 青白いじーさんのお化けが叫びながら飛び出てきて、後から三つ目のオヤジがクルクル回る。 その場に二人の叫び声が響き渡った。 連続で出てきたから思わずすごいデカイ声が出てしまった。 それは月島も同じなのに、震えた声で笑いながらバカにしてくる。 「何今の声? ウケるんですけど~」 「あ゙ぁ! テメーもデケー声出してただろーが!!」 「出してません~」 「嘘つくなボゲェっ!」 「なっ、ちょっ!!」 自分のことは棚に上げて笑う月島に腹が立って、俺は月島の肩を突き飛ばしてやった。 「ウワヮッ!」 「わっ!」 「あっ、すみません!」 よろめいた月島の身体が後ろにいた女のお化けにぶつかった。 それに慌てた様子で頭を下げる月島に、女も頭を下げて立ち去って行く。 「ちょっと何してんの! お化けにぶつかっちゃったでしょ!」 「うるせぇボゲェ!」 「人のこと突き飛ばしといてボケはないでしょ」 「うるせぇって言ってんだっ……ひぃっ!」 月島に文句を言っていたその時、何かが耳にフワッと触れた。 その嫌な感触に肩を跳ねらし、耳に触れているものを掴み上げた。 「な、やっ、イヤだ!」 「フフ……君が悪いんだからね。 お仕置きしてあげたの」 鼻で笑った言葉に、今掴んでいるものが月島の手だと分かった。 「あ……テメー月島っ! また耳触りやがって! いい加減それ止めろって言ってんだ、うわっ!」 熱くなった耳を押さえながら声を張り上げた途端、また横から髪の長い女のお化けが躍り出てきた。 それにビックリしすぎて、咄嗟に握っていた月島の腕を引き寄せ抱き締めてしまった。 「やっぱり怖かったんだね王様……」 「な、あっ、ち、違っ!」 怖くない、ビックリしただけだと言おうとしたけど、月島の腕にしがみついているこの状態じゃあ、全然説得力がない。 耳だけじゃない、全身が恥ずかしさで熱くなるのを感じながら、俺は素早く月島から飛び退いた。 何やってんだ俺! なんで月島の腕にしがみついてんだよ! バカか!! 「なんだ、その……わ、悪かったな……」 謝りたくなかったけど、それでも迷惑をかけてしまったのは確かで。 暗くて良かった……俺今絶対顔真っ赤だと思うから。 これが及川さんだったら、離れずにずっと手を繋いだままでいるのに、なんで、なんで違うんだ…… ドキドキ、モヤモヤ 色んな感情が入り交じる。 恥ずかしさにそっぽを向いてから、更に歩く速度をあげる。 だがそこで…… 「悪くないよ。 ずっと僕の腕、握ったままで良かったのに」 「え?」 月島の優しさを含んだ静かな言葉に、大きく目を見開いて振り返った。 「月島? 何言ってん──っ!!」 突然唇を塞がれ、言葉が紡げなくなった。 暗いし近すぎてピントが合わず、自分の身に何が起きてしまったのか理解するのが遅すぎた。 なんか生暖かく、柔らかい物…… これって……

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