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第192話
唇に触れているものを確かめようと口元へ両手を伸ばして、恐る恐る目の前のものに触れる。
暖かくて柔らかいんだけど、なんかちょっと固い……骨張ってる?
……もしかしてこれお化け?
え? ……月島は?
首を傾げた瞬間、柔らかいものが触れているだけだった唇に、何か濡れたものがあたった。
「……っ!?」
驚いて思わず開いてしまった唇の隙間から、ぬるりとした何かが入り込んできた。
な、何だこれ!
慌てて逃げようとしたけど、抱き締めるように背中に何かを回され上手く身動き出来ない。
混乱しすぎてどうすれば良いのか分からなかった。
「ん、ンンっ、ふ、ぅ……」
戸惑う舌に、熱い何かが撫でるように触れる。
口腔内を弄られ、濡れた滑る感触に擦られ痺れた。
こんなこと信じたくなくて、有り得ない
強く拳を握った。
「ん、ふうぅっ、んぁ……は……ふぅ、や、あ……やっ」
この正体不明な気持ち悪い物が何なのか、早く突き止めないと。
俺は震える手をなんとか縛りからぬけ出させ、必死に動かし、動きを封じてくる暖かく骨張った物を再び確める。
正体を突き止めようと必死に手を動かしたその時、何か細くて固いものに触れた。
冷たく、なんかガラス? みたいな物もある。
これなんだ?
やっぱり暗くてよく見えず、手探りでその固くて細いものを引っ張ろうとしたその時、手を掴まれやっと唇が解放された。
「ぷはぁっ!」
「ちょっと、眼鏡に触らないでよ。
じっとしてて……」
「……え? つ、つき、月島……?」
「黙って、じっとしててよ……」
「んンっ!」
聞き慣れた月島の少し波打った声が耳元で静かに囁かれ、そしてまた唇を塞がれた。
唇にあたった濡れた感触、ガラスみたいな物、背中を押さえ自由を奪う熱……
これら全ては……お化けなんかじゃなくて、もしかして月島?
月島の唇……
何処に行ったのかと思えば、こんなことしてたなんて。
い、嫌だ! じっとしてろとか、そんなの無理に決まってる。
「ンンンっ!? ふ……や…ぁ…ぅっ!」
触れあった舌の動きに目を見開き首を振ろうとしたが、それを阻止するように搦め捕られる。
熱く擦れ、口腔を自由自在に滑り翻弄しようとする。
吸い上げられただけで震え反応した自分に、嫌気が差し眉間にシワを寄せた。
嫌だ 嫌だ 嫌だ!
「んっ、ふあぁ……や、やぁっ!」
なんでこんなことを?
嫌がらせにしては酷すぎる。
「んぁ、んふぅ……ふ、やめ……つ、き、しま……ん、やぁっ!」
胸を押して少しでも唇を離そうと抵抗したその時……直ぐ近くで別の声が耳に届いてきた。
「ん? なんか変な声聞こえない?」
「え? お化けじゃね?」
「いや、な、なんか……ちょっとエロ、エロいような……?」
「んんぅ!?」
もしかして、他の客?
俺達ずっとここで立ち止まってキスしてたから、追い付かれた?
「んん、や、はぁ……つ、月島! 人来た!
はな、放れろ!!」
「……どうせ真っ暗だから見えないよ。
それにたまたま見えたとしても、見せ付けとけばいーよ……」
「な、何言って……!
つ、月島、んふぅっ!」
そう言って再び唇を塞いでくる月島。
こんなの嫌だ! 止めろ月島!!
必死に踠いて月島の腕の中から抜け出そうとしていると……
突然、遠くの方から慌ただしい声が複数響いてきた。
「あ、危ないから走らないで下さい!!」
「お客様! 走らずゆっくりお進みください!!」
「え? え?
エロい声の次は何?」
「どーしたんだ??」
直ぐ近くのさっきの声と、遠くで響く別の沢山の声。
「ちょっと何なの……?」
この騒ぎに流石に月島も唇を放して、低い声を出した。
本当にいったい何が起こっているんだ?
不思議に思って首を傾げていると、そこで今度は
聞き慣れた、ある声が……響いてきた。
「クッソ……っ!
ここにもいないの?!」
え……?
この、この声は……もしかして……?
「どこなんだよ!?
どこだ! 飛雄!
飛雄ーーーー!!!!」
あ……
嘘……及川さん……?
「飛雄! 飛雄!
何処にいるんだ!? 返事しろよ!
飛雄ーー!!」
「お、おい……おいか、んんぅっ!!」
愛しいその名前を叫ぼうとしたのに、月島がそれを封じるようにまた唇を奪ってくる。
俺は必死に月島の胸を力強く押して、首を振る。
月島も更に力を込めて、逃げる唇を追ってくる。
及川さん……!
嫌だ! 助けて……!
「ん、んふぅぅっ! んむっ、や、おい、及川さん!!
及川さん!!!!」
踠き、暴れて、首を振り
唇が放れた瞬間、声を思いっきり張り上げた!
「と、飛雄?!
飛雄! 飛雄ぉ!!」
近付いてきた愛しい声。
手を伸ばした先に、直ぐ傍にいる!
「及川さん!!」
「飛雄!!」
やっぱり、いた……
必死に伸ばした先に、
手を伸ばした先に、愛しい人
及川さんの手が俺の手を握った
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