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第193話

「良かった……やっと見付けた!」 顔は見えないけど、掌から伝わるこの暖かくて愛しい感触は、間違いない…… 及川さんだ。  彼の嬉しそうな声に胸が高鳴ったことに気付いて、顔が熱くなった。 「行くよ飛雄、ここから早く出よ! お前の顔が見たい…………おいで……飛雄」 俺も……あなたの顔、見たい…… 優しく引かれる手に、抵抗なんて言葉はいらない。 強く握り返して、導かれるまま歩を進めようとしたその時、もう片方の手を別の温もりに引かれた。 「行かせない…… 王様、行かないでよ」 月島の声、少し震えてる? 握る手に強引さはなかった。 さっきまで無理矢理したくせに、なんでそんならしくなくなるんだよ 彼には似合わないその態度に、一瞬目をさ迷わせてしまったけど、それでも俺の答えは1つだから。 全然力の入っていない手を離して、もう一度愛しい手を強く握る。 及川さんが笑う気配がして、俺も口角を上げた。 「悪い月島…… 俺、及川さんと行くわ。 じゃーな」 真っ暗で、月島がどんな顔をしているのかは全然分からない。 怒ってる? それとも悲しそうな顔? もし、悲しそうな顔なら、俺にはその理由が何なのか理解すら出来ないけど、それでもごめんな…… やっぱり俺の中には、及川さんの手を握るしか選択肢は存在しないから。 「行きましょう及川さん。 俺も…… あなたの顔が早く見たいんです」 自分でそう言った途端、顔が熱くなっていった。 及川さんの顔見たいけど、自分の顔は今ものすごく真っ赤だろーから、見られると恥ずかしいです…… 「早く、早く行こ……飛雄」 及川さんのその答えと共に、俺達はお互い手を握りあって、出口へと急ぐ。 「王様! か、げ…やま……」 後ろの方で、月島の似合わない声が響いた気がしたけど、振り返ることはしなかった。 二人で揃ってお化け屋敷から脱出する。 途中、何回もお化けが飛び出してきたけど、及川さんが傍にいるから、 彼の温もりが俺を安心させてくれた。 「あっ! ……飛雄、居たんだ。見付かったんだ……」 お化け屋敷から出たと同時に、新藤さんの声が耳に届いた。 どうやら出口のすぐ近くで、俺を探しに行った及川さんが出てくるのを待っていたようだった。 俺の姿を見た途端、表情が曇ったのが分かった。 見付かってほしくなかったんだろうな…… お化け屋敷から出たのに及川さんは俺の手を離すことはなく、握ったまま新藤さんの方へと歩み寄る。 それがすごく嬉しかった。 「梓ちゃん、やっと飛雄見付かったよ。 その……一緒に探してくれてありがとう。 けど、ごめん! 梓ちゃんも飛雄と二人きりになりたいんだろーけど、分かってるんだけど…… ごめん…… 飛雄と二人っきりにさせて…… 二人っきりになりたいんだ。 ごめんね……梓ちゃん…… ごめん」 及川さんの言葉に新藤さんの眉が下がり、悲しそうな 今にも泣き出しそうな顔へと変わった。 その表情に及川さんは一度俯いたけど、すぐ顔を上げて 俺の手を引いた。 「行こう、飛雄」 「……ハイ」 及川さんの真っ赤な、それでも優しい笑顔に俺も熱くなるものを感じながら微笑み返して、 一緒に走り出す。 早く、早く 二人っきりになりたい……

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