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第194話
どこでもいい……
二人きりになれるとこなら
少し歩いたところで、二人の目に大きな観覧車が映った。
「観覧車……
あそこなら二人きりになれるね。
乗ろっか」
「……ウス」
他の客達の声で騒がしいこの場所で、及川さんの静かな優しい声だけが俺の耳に鮮明に響いた。
それに心をギュッと掴まれた。
頷く以外の答えなんてあるわけないじゃないか。
「2名様ですね。こちらにどうぞ~
足元にお気をつけてお乗りください」
観覧車の係員に誘導され、先に及川さんが乗った。次は俺だ。
そう思い顔を上げて乗ろうとしたら、及川さんの笑顔が視界に映った。
「ホラ、飛雄」
そっと俺の方へと差し伸べられた手に、俺は嬉しさに口角を上げて、迷わず手を伸ばした。
その手を優しく握ってもらえたと思った次の瞬間にはもう、俺の身体はゴンドラの中へと引っ張り込まれ、
及川さんの腕の中へと吸い込まれるように抱きしめられていた。
「わっ! お、及川さん!」
「……飛雄」
「えぇっ! あっ、そ、い、いってらっしゃいっっ!!」
係員の慌てたような悲鳴に近い声が響いた後、ゴンドラの扉が閉められた。
すごい恥ずかしい。
恥ずかしかったけど、それに文句を言う気持ちにはなれない。
だって
俺も、ずっと及川さんに抱きしめてもらいたかったから。
「飛雄、飛雄……ずっとこうしたかった。
飛雄を抱きしめたくて、抱きしめたくて仕方なかった。
飛雄の体温を感じたかった……」
「及川、さん……俺も、俺もです」
そっと背中に腕を回し、強く抱きしめ合う。
及川さんの熱い息が耳にかかり、何度も呼ばれる自分の名前さえも愛しく感じる。
及川さんにもそう思ってほしくて、俺も何度も愛しさを込めて彼の名前を囁く。
「飛雄……」
「及川さん」
「飛雄、キスしたい。
キス、させて……」
「及川さん……」
俺もしたい。
させてじゃなくて、お願いしたい。
及川さんの肩口にうずめていた顔を上げて、見つめ合う。
「飛雄」
熱のこもった声で名前を呼ばれ、
どちらからともなく
唇を寄せ合った……
熱のこもった唇にそっと触れて、相手の吐息を感じる。
触れるだけのキスを角度を変えながら何度も何度も繰り返し、甘い音を鳴らしあう。
「ん……んん、ふ、ぁ……おい、か、わさ……んンっ」
無意識に背中に回した腕に力を込める。
及川さんもそれに応えるように、苦しくなるほど強く抱きしめてくれた。
ずっとほしかった感じたかった体温、匂い……
胸が愛しさで溢れそうになる。
「お、いかわさ、ん……」
そっと唇を離し及川さんの胸に顔をうずめると、頭に優しくて甘い感触が与えられた。
その感触に鼓動が速くなっていくのを感じて、愛しさに苦しくなった。
でもそれは俺だけじゃないみたいだった。
大きな胸に押し当てた耳から伝わる、彼の速くなっていく鼓動に
嬉しさが込み上がる。
「及川さん、スゲードキドキしてる……」
「そんなの当たり前でしょ。
ずっと触れたかった飛雄にやっと触れることが出来たんだから……」
「及川さん……俺も、俺も……ずっと触れたかった……」
彼の素直な言葉にもっと嬉しくなって、俺も自然と素直になる。
「及川さん、俺、及川さんがほしい。
もっと、もっとほしいです……」
彼に触れて、いっぱい愛を感じて……
早く、早く月島に触れられたあの記憶を、感触を消してほしい。
及川さんも。
新藤さんに握られた手の感触を、俺に触れることで早く消してほしいんだ。
お互いの感触で、体温で、早く……
あなたの心の中を俺でいっぱいにして……
触れるだけで満たされていたのに、どんどん欲張りになっていく自分に身体が熱くなる。
「お、いかわさ、ん……」
この想いを止められなくて、また彼の唇へと、自分から唇を寄せる。
「ン……」
熱い唇から体温を確かめあって。
そっと舌を差し出せば、及川さんはそれをすぐに受け入れてくれた。
「んん、ふ、ぅ……」
擦れ合う舌がものすごく熱くて、頭がクラクラする。
その頭を後ろから押さえられて、口付けをもっと深くされる。
優しく舌を搦め捕られたかと思えば、強く吸い上げられた。
「ふ、あぁ…ん、ふぁ……」
もっと……もっと
求めてほしい
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