198 / 345

第197話

及川さんは電車の中でもずっと深刻そうな表情をしていた。 何か悪いことしてしまったのだろうか? でも、さっきまで笑ってくれてたのに、どうして…… それに、こうして強引に引っ張られ及川さんの家に帰るのは、前もあった気がする。 及川さんはアパートに到着するなり、余裕無さそうに直ぐ様寝室へと直行し、俺をベットへ押し倒した。 「わっ! お、及川さん……んぅっ!」 そして素早く俺に股がり、唇を塞いできた。 どうしてこんな強引に…… でも、それでも俺はどんなに激しくても、及川さんとキス出来ることが嬉しい。 だって……ずっと喧嘩してて擦れ違って、寂しくて。 会いたかった、触れたかった 触れてほしかったから…… だから、どんなに強引でも、怒ってても、 俺は及川さんに全てを…… 「んうぅ……ふ、ぁ……んぅ、ふ…ンン……っ」 俺は及川さんの首に腕を回して、もっと自分から口付けを深くする。 舌を搦ませ合うと、何度も擦れる感触に身体が反応し震える。 ずっとほしかった愛しい熱に素直に感じて、もっともっとと求める。 及川さん……スゲェ気持ち、いい…… 頬を伝い溢れ落ちる唾液を気にする隙がないほど夢中で、お互いの口腔内を味わい尽くす。 それが長く続き、お互い息苦しくなって呼吸が乱れだした頃、どちらからともなく唇を離した。 「は……あ、ぅ……はぁ、はぁ……」 キス出来たことに喜びを感じながら、彼を見つめ笑った。 けれど、及川さんの瞳にはまだ、悲しみの色は消えてはいなかった。 「及川さん……」 どおしてまだそんな顔をしているんだ……? そんな顔してたら、こっちまで悲しくなるだろ。 不安に潰されそうになりながら、恥ずかしいけどそれでもこう質問した。 「及川さん……気持ち良く、なかった?」 俺の質問に及川さんはもっと顔を悲しみに歪ませて、首を振った。 「違う……違うんだよ飛雄……」 違う? 何がどう違うと言うんだ? 意味が分からず、自然と下がる眉をそのままに首を傾げる。 そんな俺にますます顔を歪ませ唇を噛んだ及川さんは、視線を下にずらし、俺の服を上へと捲り上げた。 それに胸がドキリと音を立てたのと同時に、露になった尖りへと唇を寄せる及川さん。 舌先が尖りに触れて濡れた感触が心いっぱいに広がり、 ゾクリと快感に震えながら彼の背中に腕を回し抱きしめる。 「あ……及川さん……」 「……っ」 だけど彼は何故か舌を引っ込めてしまった。 足りない……これじゃあ足りねーよ。 「やっぱりダメだ……」 「及川さん、どおして?」 「飛雄……」 「そんな……そんな顔しないで下さい。 俺、及川さんのその顔嫌です。やめてください。 どおしたって言うんですか及川さん。 なんでずっとそんな顔してるんですか? 俺何かしましたか? 教えてください及川さん!」 俺の言葉にますます眉間にシワを寄せた及川さんが、胸元に指を滑らせた。 何故か何度も同じところを指で擦っている。 「及川さん? そこに、そこに何かあるんですか?」 「何かあるってお前……」 及川さんの声が低くなる。 嫌な空気が部屋中に漂い、無意識に俺の眉間にもシワが寄ってしまう。 「すんません……分かんないんです俺…… 教えてください及川さん」 「本気で言ってるの?」 「……はい」 及川さんは辛そうに視線を何度かさ迷わせてから、ゴクリと喉を鳴らした。 俺もつられて喉を鳴らす。 そして、決心したかのように、及川さんはゆっくりと唇を開いて、さっき擦っていたところを指でグッと強く押してきた。 「お前……ここにつけられてるものの意味分かってんの……?」 「ここ? 意味って? そこに何かあるんですか?」 首を傾げた俺に及川さんは思いっきり顔を歪ませて、大きな舌打ちをした。 「キスマーク、 キスマークだよ!」 「……キスマーク……?」

ともだちにシェアしよう!