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第198話
キスマーク……ってなんだ?
俺は及川さんのその口から飛び出した言葉に理解出来ず、思わずポカンと口を半開きにさせた。
その態度が気に食わなかったのか、彼の表情は更に険しいものとなった。
「お前のその胸元にある痣、それがキスマークって言うんだよ!」
「……痣? …………あっ! もしかしてあの時の?」
胸元にある小さな痣……
今まで及川さんのことで頭いっぱいで忘れてたけど、そう言えばこれはあの時の、
靴箱のとこで月島につけられた痣だな。
「それさ……やっぱりメガネくんにつけられたの?」
「え? あ、はい」
どうやってこんな小さい痣つけたのか知らねーけど、月島と靴箱でやり合った後に鏡見たらこの痣が出来てたんだよなぁ……
なんてあの時のことを思い出しながら、及川さんの質問に素直に頷いた。
「は、はいって……何サラリと答えちゃってんの?
因みにさ飛雄、それってどうやってメガネくんにつけられたの?」
「え? どうやってって……」
どうやってつけたんだあいつ?
「……さぁ、分かりません」
「なんで分かんないのさ?!
メガネくんにつけられたってことは分かってるくせに、なんで分かんないってゆーの!?
どうして隠すの?」
「えぇ!? 隠すって!
そんな、俺は何も隠してなんかいません!
本当にこれをあいつがどうやってつけたのか、全然分かんないんです!」
「なんで……」
必死に首を振って訴えかける俺に、険しい表情をまた曇らせ俯く及川さん。
どことなく肩が震えているように見え、彼を怒らせ悲しませてしまった原因である、この痣に苛立ちを感じた。
不安でどうしようもない頭を、それでもあの時のことを思い出そうとフル回転させる。
だけど答えなんて見つけられず。
「すんません俺……本当に分かんなくて……」
「そう……
だったら思い出せるように、メガネくんと同じように今から俺が、お前にキスマークつけてやる……」
「え? キスマークつける?
て……あの、及川さん?」
「飛雄、動くな」
真剣な瞳を俺に向けたまま逸らさず、唇を胸元へと近付けてくる。
及川さん……胸元にキスするのか?
まぁ、キスマークって言うし、キスするんだろーけど……それで痣なんかつけられるのか?
頭上に?を浮かべながら、それでも及川さんの唇が胸元に寄せられていくことに、高鳴りを抑さえられない。
そっと唇が胸元に触れて、身体が大袈裟に跳ね上がる。
そこを一舐めされたら、その濡れた生温い感触にまた身体が震えて。
そう思った時には、そこに唇を強く押し当てられ心も震える。
そして次の瞬間、及川さんの唇があたっているところに、ビリッとした痛みが走った。
「イッ! ……は……及川さん……」
その痛みに身体を震わせながらも、胸に触れている及川さんの唇をもっと感じていたいと思っていまい、彼の首に腕を回した。
及川さん今怒ってるのに、それでもほしくてほしくて仕方ない。
「及川さん、及川さん……」
「飛雄……お前何してんの?
俺今、お前にキスマークつけたんだよ?」
「……そーなんすか? いつの間に?
速いっすね……さっきなんか痛かった時に、そのキスマークとやらがついたんすか?」
「…………はーー……」
そんな俺の言葉に及川さんは、あからさまな大きなため息を吐いた。
そして、俺の胸を強く押して、腕の中から抜け出してベットに座る。
それに寂しさを感じずにはいられなかった。
「分かってないみたいだから教えるけど、キスマークの付け方、それは……
つけたいところにキスして、そこに強く吸い付いたらつくんだよ。
つまりさ、飛雄はメガネくんに、胸元にキスされたってことだよ!
しかも、丁度服で隠れるところにつけられてさ。
それって……お前、メガネくんに……服、脱がされたってことなんじゃないの?」
及川さんの波打った声が、俺の鼓膜にも波を生んだ。
胸にキス、服脱がされた……?
それってまるで……月島とセックスしたみたいに聞こえるじゃねーか!
「ち、違っ! 俺は月島とセックスなんてしてない!!」
「止めろよ! そんなこと聞きたくない!!」
「違う、違うんだ及川さん!!
俺は本当に月島とセックスなんてしてないんだ!
信じて……信じてくれよ及川さん!!
頼むから……」
俺は慌てて起き上がり、及川さんの腕を引っ掴んで、必死に首を振って訴えかけた。
そんな俺に及川さんは下唇を噛んで、何かを堪えているかのように辛そうに顔を歪め、瞳を揺らしていた。
「及川さん、信じて……」
「ごめん飛雄……」
「謝るってことは、信じてくれないんですか?」
「……信じてる……信じるって決めたばっかなのにごめん、ごめんね飛雄!」
「及川さん!」
「好きなんだ! お前のこと本気で!
だから、ちゃんと信じようって、どんなことがあっても離さないって、そう思えば思うほど……頭の中ぐちゃぐちゃになる。
ごめん。ちょっと俺……
外出て、頭冷やしてくる……」
「及川さん、及川さん!!」
涙が溢れて、視界がどんどん滲んで前が見えなくて。
それでも彼の体温を心を失わず、掴み取りたいと
懇願した。
でも……部屋中に響き渡る
ドアが閉まる音。
及川さんが立ち去っていったと教える音だけが、虚しく俺の心の中で響く。
仲直り出来たと
やっと及川さんの温もりに触れられたと
思っていたのに……
どうしてこうなってしまったんだ?
及川さん! 戻ってきて
また、俺を強く抱きしめてくれよ
及川さん!!
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