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第199話

及川side 俺って、こんなに弱かったっけ……? 飛雄……お前のこと好きだから、信じたい 誰よりも一番に信じたいって思ってる。 でも俺は、弱い人間だった。 お前のこと絶対諦めないって、離さないって誓いながらも胸元のキスマークを見た瞬間 頭の中が真っ白になった。 本当に弱いね、俺…… それでも、飛雄のこと本気なんだって、一番誰よりも大切で大好きだって、心の底から言えるから……だから 信じたいし、信じてほしい…… 頭を冷やすなんて言っても実際はどうすれば良いかなんて分からなくて、頭ん中ぐちゃぐちゃなままただ髪を柔らかく揺らす夜風を感じながら、フラフラと歩を進めるだけ。 でも、俺の足はある方向へと自然と動いてしまっていた。 アパート近くの公園 飛雄と喧嘩してしまったあの公園へと、足を運んでしまっていた。 俺が弱い人間だからあの時も喧嘩して、そしてまた飛雄を傷付けた。 「飛雄……まだ、俺の家にいてくれてるのかな?」 家を飛び出す直前に映った飛雄の顔…… 悲しそうに俺の名前を呼んでくれて 「俺って……ほんとバカ……だね……」 信じてくれって、飛雄があんな顔して言ってくれたんだ。 あれは絶対メガネくんに無理矢理つけられたものだって、分かっていたのに それでも飛雄の身体に俺以外の奴からつけられたものが存在していることが、悲しくて悔しくて…… 「飛雄」 目頭に熱くなるものを感じながら、愛しい人の名前を呟く。 「徹……泣いてるの?」 堪えきれず頬を濡らし滑り落ちた雫をある人が近付いてきて、 そっと指で消し去った。 「……っ! あ、梓ちゃん!」 こんな近くに人が居たのに、全然気がつかなかった。 それほどまでに俺の頭の中は、飛雄でいっぱいになっていたと言うことか。 「あ、梓ちゃん、なんでこんなとこに居るの? 梓ちゃん家ここから遠いよね? なんで?」 「…………」 俯き何も言わない梓ちゃんに、ある想いが浮かぶ。 そっか…… 「梓ちゃん、飛雄に会いに来たんだ」 「……っ」 顔を上げて切なそうに眉を下げて真っ直ぐこちらを見つめる彼女に、考えが的中してしまったと小さく息を吐く。 「やっぱりそうだっ──」 「違う!」 複雑な気持ちで口を開いた俺の言葉を、素早く遮る梓ちゃん。 「違うよ。だってとびおの家知らないし」 「俺と一緒にいると思ったから、アパートの近くまで来たんでしょ? そしたら公園に俺だけが居たから、声掛けたってところ。 違う?」 「……半分当たってる」 「半分?」 半分当たりってどういうことだ? 意味が分からず、梓ちゃんの次の言葉を待った。 彼女は眉を下げたまま、それでも笑って見せてくる。 「会いに来たんだよ。 とびおと一緒って分かっててもそれでも会いたくて。 もしかすると会えるかもって思ってそれで とびおと一緒だとしても、それでも…… それでも、もう一度顔が見れれば良いかなって思って、アパートの、近くまで、来ちゃった……」 最後が切れ切れになっていく言葉。 明らかに無理に笑って、瞳を潤ませる彼女に、俺は目を見開いた。 こんな弱々しい梓ちゃんは久しぶりで、戸惑いを隠せない。 あの日……本当は飛雄のことが好きなんだって打ち明け、君を泣かせてしまった。 あの日以来、久しぶりに見た梓ちゃんの泣き顔に、胸が締め付けられる。 「なんで気付かないかな…… 徹って鋭そうに見えて、実はバカだったんだね」 「梓ちゃん、もしかして?」 「やっと気付いたの? 鈍感な徹くん?」 「……嘘でしょ?」 「嘘じゃない! あんたに私の気持ちを否定されるのが、一番、辛い……!」 「っ!」 ポロポロと涙を溢れさせた梓ちゃんが、両手で俺の胸を叩いた。 俺はそれを何も言わず受け止める。 何度も何度も、途中からだんだん力なくなってきて…… 「梓ちゃ……」 「ごめ……ごめんね…… まだ、まだ諦められなくて、ごめん…… 好き、好きなんだ…… ごめん…ね……」

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