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第205話
最後に掴まれた、肩に残る感触が痛くて。
そして、熱すぎて
今もまだ消えない……
忘れようとしても、頭が勝手にあなたの姿を鮮明に思い浮かべてしまう。
涙が溢れて、視界が滲み沢山零れ落ちても、俺の中のあなたは綺麗で
輝いてる……
嫌い? さよなら?
まさか、そんなあり得ない言葉達が、俺の口から出てしまうなんて
ショックで、悲しくて、俺だけを見つめててほしかった
約束……守ってほしかった
絡めあった小指と小指
及川さんの笑顔、温もり
今もまだ触れたいと、大好きだと叫んでる……
「影山ーーーー!!
昨日どうだった!?
大王様とのデート、上手くいったか??」
翌朝、靴箱にて靴を履き替えていると、日向が突進するかのようなものすんごいスピードで近付いてきて、俺の腕を力強く引っ張ってきた。
「いてーよ日向ボゲェ……」
「あっ、ワリィ! スゲー気になってたからつい……
って、お前! 目ぇ真っ赤じゃん!!」
俺の顔を覗き込んできた日向が目を見開き、眉を下げて心配そうに見つめてくる。
一晩中ずっと及川さんを想い泣き続けたから、目も真っ赤になるよな。
「影山って大王様のことでいっつも目を赤くしてるよな……
これで何回目だよ?」
「知らねーよクソが……」
日向が小さなため息を溢して優しく笑うから、恥ずかしくなって思わず目線を逸らしてしまう。
「大王様とまたなんかあったんだな?
何があったんだよ?」
「……なんも、ねーよ」
「嘘つくなよ、下手くそ。
何があったのか話してみろよ。
俺さ、これでもスゲーお前らのこと心配してたんだぞ?」
なんだよ日向のくせにそんな優しそうな瞳で、心配してたとか言うなよ……
また泣きそうになるじゃねーか。
恥ずかしくて逃げるように背を向けたけど、それをピョンピョンウサギみたいに跳ねて追い掛けてきて、目線を合わせてくる日向。
「こっち来んな日向ボゲェ!」
「お前が逃げるからだろ。
なんでもいーから話してみろって!」
顔を背けたら目の前まできて、また俺の顔を覗き込んでくる。
逃げれば逃げるほど追い掛けて、俺の前に立ちはだかる。
二人でクルクル回って、ピョンピョン回り込まれて、なんかバカみたいだ。
「あーーウゼェ……分かった言うよ。
言えばいーんだろ!」
「へへーん、勝ったぁ!」
「俺は別に負けてねーぞ!」
「ハイハイ。で? 何があったの?」
こっちはすごい悩んでるのに、しつこく追い掛けてきやがって……
それでも、そんな日向の優しさがなんか嬉しかった。
聞いてほしいと思った。
「及川さん……やっぱり男の俺なんかより女の新藤さんが良かったんだ……」
「……はぁ?」
さっきまで優しく微笑んでいたのに、そう言った途端顔を歪めた日向は、似合わない低い声を出してきた。
それに一瞬怯んでしまう。
「日向のくせに、変な声出すなよ。
昨日色々あってな……及川さんとまた喧嘩しちまって、及川さんが出て行ったんだよ。
そしたらその後……新藤さんと抱き合ってて。
なんで抱き合ってたのか、何があったのか、ちゃんと話してくれなかった。
やっぱり、女の方が良かったから、新藤さんを抱き締めたのかなって思って……」
俺が話せば話すほど、日向はどんどん顔を歪ませていく。
「及川さんは新藤さんを選んだ。
俺は捨てられたんだ」
「はぁ?」
「変な声出すなって言ってんだろーが日向ボゲェ!
及川さんは新藤さんが好きなんだ!
俺はもう及川さんにフラれたんだよ!!」
「そんなのあるわけねーだろバ影山!!
大王様が影山をフるわけねーだろーが!!」
「んで、そんなことが分かるんだよ!?」
「分かるから分かるんだよ!
大王様が影山と別れるわけねぇ!
俺は絶対信じねーぞ!!」
「んで、そこまで言い切れるんだよ?
及川さんは新藤さんを抱き締めてたんだぞ?
しかも、その理由を話してはくれなかった……
俺は捨てられたんだよ」
「俺達だって、試合に勝った時とか、嬉しくて抱き合うじゃん!
それで、お前は大王様を捨てたことになるのかよ?」
「それとこれとは話が別だろーが!」
「そんなの、ちゃんと大王様に聞いてみねーと分かんねーだろ!!」
日向は思いっきりこちらを睨み上げて、顔を真っ赤にして熱り立っている。
なんでそこまで及川さんを信じれるんだよ?
俺も及川さんを信じたい。
信じたいけど、及川さんは自分から言った約束を破った。
それが悲しくて、素直に信じられないんだ。
悔しくて俯いた俺に気付いた日向が、俺の頭をポンポンと叩いてきた。
「子供扱いすんな……」
「別にしてねーよ……
俺は大王様を応援するって決めたんだ。
大王様は影山を幸せにするって約束してくれた。
あの時の大王様の目は本気だった。
あの人は絶対影山を幸せにしてくれるって、俺は信じてるから!」
「日向……
でも、心変わりすることもあるだろ?」
「そんなの、俺が絶対許さねーし、あるわけない。
俺はちゃんと大王様に聞くまで、それは信じねーからな!」
そう笑ってから、日向は立ち去っていく。
なんだよ日向のくせに。
俺も、及川さんを信じてーよ……
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