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第207話
及川side
なんでまた、もう一度と言わず何度でも追いかけなかったのだろうか?
本当にバカだったと今更ながらに思った。
頭ん中真っ白でも、身体動かせよ って……
嫌い、さよならって言われて、すごいヤバイぐらいショックだったけど、それでも……
俺は別れるつもりはない
てゆーか諦められるわけない。
あの2年間ずっと飛雄を忘れようとしても忘れられなかったこの俺が、このお・れ・が!
そんな簡単に諦めるなんて不可能に決まってるでしょ!!
「及川、影山と仲直り出来たのか?」
「あ、岩ちゃん! いやそれがまた喧嘩しちゃったんだよねぇ~」
「は? それにしちゃあ、そんなに落ち込んでねぇじゃねーか」
「いや、これでもかなりヘコんでるんだけどさ、いつまでもクヨクヨウジウジしてたら飛雄遠くへ逃げちゃうかもしれないでしょ?
逃げて見えなくなっちゃう前に、早く捕まえに行かなくちゃ!
後悔したくないからさ!」
前を向いて走り続けて、心の底から欲しいと願うものには全力で手を伸ばし、絶対掴み取る!
昔からどんな時でもそうだった。
バレーも、そして恋も……
それが及川徹だから。
そう言って笑った俺の顔をまじまじと見つめてから、岩ちゃんがフッと息を吐いた。
「お前……前までクソだったのに……
ちょっとは強くなったんだな」
「クソって何さ!?
俺は前から強くてカッコいいですー!」
「ハッ! 影山にフラれたぁーって泣いてた奴がよく言うべ!」
「ゔっ! ……ま、前までの俺とは違うんだよ!
ビックリしすぎて腰抜かさないでよ岩ちゃん!」
「ハハッ!
誰がクソなんかに腰抜かすかよボケが!」
「またクソって言ったぁ!
人の恋愛相談に乗ってくれるのはありがたいけどさぁー、そーゆー岩ちゃんはどーなのさ?」
「は? んだよ……」
「この前デートに誘いたい女の子がいるって言ってたじゃん。その子とはどーなったの?」
「……別にどーもねーよ……」
なんてらしくない自信無さそうな声を出す岩ちゃんに、イライラが込み上げてきた。
俺は目線を逸らした岩ちゃんの手を掴んで、思いっきり引っ張ってやった。
「オワッ、あっぶね! 何してんだクソが!!」
「うるさい!」
なんとか踏み止まった岩ちゃんに怒鳴られたけど、負けじと怒鳴り返して、睨み付けた。
「早くデートにでも誘いなよ! それが無理なら放課後一緒に帰るとか。
行動に移さなきゃ相手に自分の気持ち伝わらないよ!」
「うっせぇなボゲェ!
相手には、その……好きな奴がいるんだよ……
だから自分の気持ち伝えても、意味ねぇーんだよ……」
「……好きな人? それって彼氏?」
「……いや、その……じゃねーけど……」
「あーーーー岩ちゃんらしくなさすぎてイライラする! ハッキリしなよ!」
「クソ川のくせに生意気だぞ! 前までウジウジ俺に泣きついてきたくせに!!」
「そりゃそーだったけど。岩ちゃんにはいっぱいイライラさせちゃっただろーけど。
それでも今は自分の気持ちにも、飛雄の気持ちにだってちゃんと向き合おうとしてるよ!
どんなにすれ違って喧嘩しても、絶対諦めないよ!
諦めずに突き進む勇気を教えてくれたのは岩ちゃんじゃん!
すごく感謝してる……
人には諦めるな、気持ち伝えてこいって言ったくせに、自分は逃げるの?
それっておかしくない? 彼氏じゃないんでしょ?
だったら告白して来なよ!」
岩ちゃんには今まで何度も背中を押してもらった。
そのお陰で、諦めずに前進する勇気が持てた。
岩ちゃんにも、諦めず前進してほしいんだよ俺は。
俺は真っ直ぐ岩ちゃんを見つめる。
「その人のこと本気で好き?」
「…………」
俺の質問に目を泳がせながら、顔を真っ赤にする岩ちゃんに笑みが溢れる。
「何照れてんの? 別に恥ずかしいことないよ。
人を本気で好きになるって素敵なことじゃん。
俺は堂々と言えるよ。
飛雄のこと本気で愛してる!」
「及川……」
「岩ちゃんは? その人のこと本気で好き?
まさか、嫌いなの?」
「嫌いなわけねーだろーが!」
「じゃあ、好きなんだ?」
「……ぉぅ」
聞こえるかどうかギリギリの、小さな声で返事をしてくる。
岩ちゃん可愛い……
すんごい真っ赤! こんな岩ちゃん見たことない!
「声が小さーい!!
その人のこと好きですか?
大好きですか? 愛してますか!?」
「恥ずかしいこと、でかい声で連発すんな!!」
「恥ずかしくない!
人に恋することの何が恥ずかしいの?
堂々としてなよ! もっかい聞くよ?!
その人のこと本気で愛してますか!?」
「あーーーーうっせぇ!
愛してるわボゲェ!!」
「うへへ」
「笑うなボケが……」
岩ちゃんの口から愛してるって言葉が聞ける日が来るなんて、なんか自分のことのように嬉しくて仕方ない。
「俺、今から飛雄のとこ行ってくる。
後悔したくないから、飛雄とぶつかってくる。
岩ちゃんは?」
「……俺も、行ってくる。
お前が頑張るなら、俺も頑張んねーとな……
俺達、今まで一緒に色んなこと頑張ってきたんだ。
恋だって一緒に頑張ってもいーだろ?」
「さすが岩ちゃん。
男らしくて、自慢の親友だよ!
じゃあ岩ちゃん、行ってきます!!」
「おうっ! 行ってこい!」
「岩ちゃんも行ってらっしゃい!」
「い、行ってきます!!」
今まで、沢山助けてもらって、沢山背中を押してもらった。
ありがとう
ねぇ、やっと俺も、岩ちゃんの背中押すこと出来たかな。
お互い、本気の恋、
諦めずに頑張ろうね!
俺達は笑い合いながら、ハイタッチした。
とても、良い音がした
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