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第208話
及川side
飛雄……早く出てきて。
俺は飛雄に会いに、烏野の校門前に立っていた。
まだ怒ってるのかな?
もう嫌いとかさよならなんて、あんな悲しいこと言わせない。
ちゃんと何度でも飛雄と向き合っていたいんだ。
ただただ飛雄が歩いてくるであろう方向を、真っ直ぐ見つめる。
途中で数人の女の子達に声を掛けられたけど、それには応えずひたすら前だけ向いていた。
余所見して飛雄を見失いたくないから。
ずっとずっと飛雄を待ち続けていると、前方から小さな影がこちらに近付いてきたのに気付いて、俺は目を見開いた。
「あっ、チビちゃん!」
「あっ! 大王様!!
やっぱり大王様来てくれてた!
良かった、来てくれて……」
チビちゃんはホッとしたような、穏やかで安心しきった微笑みを浮かべた。
「俺、大王様のこと信じてました!
大王様は浮気なんて絶対してない。
影山のこと一番に考えて、幸せにしてくれるって信じてましたから!
あの時、そう約束したから。
そうですよね!」
チビちゃんは俺の顔を覗き込んで、嬉しそうに笑った。
そんなチビちゃんを見ていたら、さっきまでの緊張して固くなっていた心が柔らかくなって、ゆとりが生まれた気がした。
だから俺も笑って、堂々と自信に満ちた返事が出来た。
「当たり前でしょ!
俺は飛雄だけを見てる。
飛雄を絶対幸せにするって、あの時約束したもんね!
だから今、ここに居るんだ。
飛雄を迎えに来たんだよ」
「ハイ!」
俺が飛雄を絶対幸せにするって言った途端、チビちゃんは変わらず嬉しそうな顔したけど、目が潤んでいることに気付いた。
そっか……
きっとチビちゃん、まだ飛雄が好きなんだね……
その想いに気付いて、俺は目頭が熱くなった。
ありがとうチビちゃん
信じてくれてありがとう……
「影山、そろそろ出てくると思うんですけど……遅いですね」
チビちゃんが笑いながら遠慮がちに目尻を拭って、心配顔でそう言った。
「そうなんだ。まだかな……」
もしかして飛雄、俺がここに居ることに気付いて出てこないとかじゃないよね?
勝手にマイナスなことを考えて、不安な気持ちに呑み込まれる。
それを無理矢理押し込めて校舎の方向へまた目線を向けると、そこで爽やかくんと主将くんがこちらに向かって歩いてきているのが視界に映った。
「二人とも……」
「あっ、及川!」
「良かった、来てたのか……」
チビちゃんと同じように安堵の笑みを溢して、二人が近付いてきた。
それに申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「爽やかくん、主将くん……チビちゃん。
皆ゴメンね……」
「なんで突然謝るんだよ?」
「いや皆、俺と飛雄のこと心配してくれてたんだなと思って……」
「お前のことは別にどうでもいい。
ただ影山のことが心配なだけだ」
「さっき良かったって言ったくせに……」
冷たい言葉に頬を膨らましていると、チビちゃんが焦った面持ちで爽やかくんの肩を掴んだ。
「あ、あのスガさん、影山は? 一緒じゃないんですか?
後、月島も!」
「ん? あぁ、影山は教室に忘れ物取りに行ったけど……
あれ大地、月島は?」
「え? そー言えば月島も一緒に来てたと思ったんだが、いつの間にかいないな。
どこ行ったんだ?」
「……え?」
キョロキョロと辺りを見渡す二人に、チビちゃんが眉間にシワを寄せた。
「月島がいない……
もしかして月島、影山と一緒に……?」
その言葉に俺の眉間にも自然とシワが寄って、背中に嫌な汗が伝ったのが分かった。
『そう簡単に上手くいくわけないでしょ?』
あの時のメガネくんの言葉が頭中を渦巻く。
不吉な予感が消えなくて、俺は掌に爪が食い込むほど強く拳を握った。
そんな俺の手に熱いものが触れて……
隣を見るとチビちゃんが俺の手を握って、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。
「大王様! 行きましょう!!」
「チビちゃん」
「早く、影山のところへ!」
俺は弾かれるように頷いて、校舎へ向かって走り出した。
その後ろをチビちゃんが付いてくる。
「え? あ、及川! 日向?!」
「ま、待てよ!」
更に二人も追い掛けてきた。それに構わず、足を進めた。
飛雄、今行くよ
無事でいて!
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