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第216話
ゆっくりと顔を上げた月島と、目線を合わせる。
月島の悲しそうに揺れた瞳に、俺の視界がどんどんぼやけていく。
「月島の気持ちは俺が一番よく分かってる……
俯きたくなる気持ちも。
でもさ、目を逸らしてたら分からなくなることもあるんだよ。
本気で影山のこと好きならさ、ちゃんと見てやれよ!
好きなら自分のことばっかじゃなくて、影山の気持ちともちゃんと向き合わなくちゃいけねーんだよ!」
「日向……」
日向の言葉に更に視界が滲む。
次から次へと涙が溢れて止められなくて、そんな俺の涙を優しく月島が人差し指で掬ってくれた。
「泣かせてゴメン……
僕は影山の涙なんて見たくないんだ。
本気で好きだから。
僕の傍で笑っててほしいと思ってたのに、僕はいつも君を怒らせて泣かせてばかりだね。
なんで上手く行かないんだろ?
なんで……」
月島の瞳からも涙が溢れ落ちた。
まさか、あの月島が泣くなんて思わなかった。
それだけ、俺のことを……
好きでいてくれてるんだな
俺もそっと手を伸ばし、月島の目尻に触れて涙を拭った。
「泣くなよ月島……俺だってお前の涙なんか見たくねーよ」
「ゴメンね影山。
好きなんだ!
君が大王様を本気で好きだって分かってても、僕の傍では笑ってくれない、振り向いてもらえないって最初から分かってたことだったのに……
それでも君がほしかった。
今でもほしい……好きすぎて辛いんだ」
拭いても拭いても溢れ落ちる月島の悲しみ。
その想いを、気持ちに気付けたとしても俺は
やっぱり及川さんが……
「好きなんだ……俺は及川さんが好きなんだ……
ゴメン月島」
「分かってるよ、君が本気なんだって。
だから謝らないで。
それでも君を忘れられない、往生際が悪い僕がいけないんだ」
月島が俺の手を強く握ってきた。
その痛みから、月島の気持ちの強さが伝わってくる。
止まらない涙も、同じ恋する想い……
「誰かを好きになったら、そんな簡単に忘れることなんて出来ねーよ!
だって本当に本気だから
俺もそうだったから!
どうしても忘れられなかったから!!」
「俺も……」
辛かった気持ちに瞳を強く閉じて声を大にすると、後ろから肩に優しい感触が与えられた。
ゆっくりと目を開けて後ろを振り向くと、その感触に負けないほどの優しい微笑みを浮かべた及川さんが、俺を真っ直ぐ見つめてくれていた。
「俺も、飛雄を何度も忘れようとしたけど、やっぱり本気だからさ、簡単に忘れることなんて出来なかった。
ずっとずっと飛雄が好きだった……」
「及川、さん……」
「俺も!!」
静かな声で、微笑みで、
想いを届けてくれる及川さんに、俺にもやっと笑みが生まれた。
それに続いて日向が月島の服の裾を掴んで、声を張り上げた。
「忘れられなかった!
今でも忘れられてねーよ。
それでも、好きだから相手の一番を考える。
確かに自分の気持ちも大切だよ。
こんなにも好きなんだから……
それでもだからって好きなやつを、自分のせいで泣かせるなんて嫌だ! 我慢出来ねーよ!
やっぱり好きな人には笑っててほしい。
一番幸せであってほしいと、いつも願ってる……」
「ひ、なた……」
月島の背に隠れてよく見えないけど、震えた声に日向が泣いてるんだって分かった。
一番の幸せを願ってくれる……
日向……
それが嬉しくて、泣けてきて、肩に乗せられた及川さんの手を握った。
それを握り返してくれる温かい手に、もっと涙溢れて……
皆の気持ちが嬉しい……
「月島、さっき言ったよな、影山に笑っててほしいって。
幸せでいてほしいんだろ?」
「うん……」
「だったら俺と同じだ。
やっぱり、大切な人にはずっと幸せでいてほしいと
皆そう願ってる……」
「皆……」
「そう、皆!」
「俺も願ってるよ……」
及川さんも泣きながら笑って頷いて。
だから、俺も涙を流しながら頷ける……
「俺も……大切な人達の幸せを願ってる……!」
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