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第218話

「大王様、すみませんでした……」 一頻り三人で泣いて抱き合い、赤面の月島に日向と笑いあった後、 月島が深々と及川さんに頭を下げた。 「まさかメガネくんが俺に謝ってくれるなんてね。 いつも俺達睨み合ってたから、こうして頭下げるなんてビックリした……」 「まぁ、睨んだのはあなたが影山の彼氏で、ライバルだったからで。 それだけ本気だったってこと、分かってください」 「それはもちろん分かってるよ」 「……僕が謝ってるのは、今日あなたを殴ったことです。 それなのに、優しい言葉をかけてくれて、背中を押してくれた。 影山とも友達になれたし、本当に感謝してます。 どうもすみませんでした!」 申し訳なさそうな似合わない声を出して謝罪する月島に、及川さんは眉を下げて笑った。 「いや、謝らないでよ。 俺から殴ったしさ、それだけ俺達飛雄に本気で恋したってことでしょ。 だからお相子。どちらが悪いとかないんだよ! それに……俺達、もうライバルじゃなくなったんだしさ、もういーじゃん! ね?」 「……ハイ」 ニコッと口角を上げた及川さんに、月島がやっと頭を上げる。 二人の晴々とした表情に、俺も笑わずにはいられない。 やっぱり、恋人と友達が仲が悪いのは、気分悪いし。 皆が笑ってる方が良いに決まってる。 良かった……本当に良かった…… そんな二人に日向と顔を見合わせて、また微笑んでいると…… 廊下の方から、騒がしい声が響いてきた。 「ハア、ハァ……こっちか? どこに逃げやがったんだあやつは? ハア、ハァハア、ハァ」 「ま、待ってください先生!!」 「と、とめ、止めるな澤村くん!」 「せ、先生!」 ? この声は菅原さんと澤村さん? いったいどうしたんだ? 首を傾げて、さっきまで一緒に笑いあっていた日向を見ると、そこにはもう笑顔はなく、顔を思いっきりひきつらせていた。 「大王様……早く逃げた方がいいみたいですよ……」 「分かってる、分かってるよチビちゃん……」 なんなんだ? 及川さんまで顔面蒼白にさせて……逃げるってどう言うことだ? なんてまた首を傾げていた俺の手を、及川さんが握ってくる。 「及川さん?」 「飛雄、行くよ!!」 「え? は? えっ!!」 そして有無を言わさず突然引っ張られ、走り出してしまう。 「ちょ、ちょっと! なんなんすか及川さん!?」 「良いから来て!!」 「行っけぇー大王様! 影山、また明日なぁーーーー!!」 「な、なんかよく分かんないけど、影山ありがとう! また、また明日!」 手を振る二人に、必死に振り返りながら手を振り返す。 友達だから、また明日会える…… そんな喜びを噛み締める また明日……明日、一緒に沢山バレーしような! 声には出せなかったけど、そんな気持ちを込めて手を振った…… でも……今はそんな暖かな空気をいつまでも、感じさせてはもらえなかった。 及川さんが俺を引っ張り、廊下に飛び出す。 「あっ! やっと見つけたぞ、不法侵入者め!!」 「お、及川、影山! 悪い、止められなかった!!」 「すまん。に、逃げろ!」 「主将くん、爽やかくんありがとう!」 不法侵入!? 息を切らしながら、その場に座り込んだ二人に駆け寄ろうとしたが、及川さんがあまりにも引っ張るもんだから近付けず。 フラフラになった先生が千鳥足で及川さんを捕まえようとしたが、それを素早くかわしてまた走り出す。 「こ、こらぁー待てぇい!!」 「せ、先生すんません! 及川さん! な、なんで逃げてるんすか!? てか、何故俺も一緒に逃げてるんです??」 「飛雄と俺は一心同体でしょ! だから、どんな時でも離れちゃダメなの。 ずっと一緒なの!!」 いっしんどうたい?? 意味わかんねーけど、それでも…… どんな時でも離れちゃダメ ずっと一緒…… その言葉に、どうしようもないくらいの喜びが込み上がる。 なんで逃げてんのか分かんないけど、及川さんとならどこまでも行けると思えた。 一緒にどこまでも…… 「ちょっと飛雄! 走りながらそんな可愛い顔しないでよ! 我慢出来なくなる!!」 「なっ! 可愛い顔ってなんすか!」 「もぉーその顔も可愛い! とにかく、帰ったら我慢なんてしないからね!」 なんなんだよそれ!! 本当なんなんだよ…… また男に可愛いって言った。 可愛くねーよ!! でも、でも…… 「及川さん 我慢しなくていいです」

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