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第220話

固い逞しい胸に擦り寄り、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。 あぁ……やっぱこの匂い、 好きだ…… うっとりと笑った俺に、及川さんの腕の力が増した。 胸から顔は離さず目線だけ上へと滑らし、及川さんの顔を窺い見ると、悲しそうに眉を下げてこちらを見下ろしていた。 「……及川、さん?」 「ゴメンね飛雄…… 俺はお前を傷付けて、沢山悲しませてばっかだね。 ほんとゴメン…… 好きだから笑わせたい、ずっと笑顔でいてほしいのに、なんでいっつも反対になっちゃうんだろ? 全然上手くいかない。 それでも飛雄が一番大好きなんだって、この気持ちは絶対嘘じゃないから! 信じてね……」 腕を緩めぬままハーっと息を吐き出して、俺の肩に力無く顔をうずめる及川さんの頭を柔らかく撫でてやる。 「大丈夫ですよ及川さん…… あなたがこうやって抱き締めて、キスしてくれて、好きだってちゃんと言ってくれるから…… だから俺はあなたの気持ちを見失わずに、信じることが出来たんだ。 それにいつも悲しんでばっかじゃねぇっス。 俺のことちゃんと見てください。 俺今、悲しんでますか?」 その言葉に及川さんは落としていた顔を上げて、俺の瞳を見つめてくる。 そしてその瞬間、嬉しそうに微笑んでくれた。 「どうっスか? 俺、泣いてましたか?」 「いや……笑ってる、笑ってるね」 「いっつも泣いてなんかいねぇ。ちゃんと笑ってます。 あんたが傍に居てくれるから、 こんなにも幸せだから、笑顔にもなれる。 そりゃ泣く時もあるけど。 あんたと一緒なら、笑うことの方が多いんすよ俺…… ちゃんと俺のことよく見てください及川さん」 勘違いするなよ 俺はあんたのお陰でこんなにも満たされて、こんなにも笑ってる。 「ちゃんと俺のこと見てたらわかるはずです。 こらからも見落とさず、ずっと見てろよ及川さん……」 「うん…… ずっと見てる。 嫌だって言われてもずっと見ていたい。 飛雄の笑った顔……」 嫌だなんて、言うわけねーだろボゲェ…… そんな気持ちを込めて俺は、目を閉じて及川さんに唇を近付ける。 笑う気配がした後に 彼も近付いてきてくれて、 チュッと音を鳴らした。 そんな恥ずかしい音も、もっと聞きたくなる。 「及川さん……」 「ん?」 「約束、覚えてますか? あんたが言った約束」 そう言った途端、彼はまた悲しそうな顔をする。 「もちろん覚えてるよ。 俺から言ったことなのに、約束破ってゴメン……」 「違うんです!」 頭を下げる及川さんに慌てて首を振ってから、彼の頬を両手で包み込む。 「違うんです及川さん、謝るんじゃダメっスよ。 俺が欲しいのは謝罪の言葉じゃないんです」 「え? なんなの?」 首を傾げた及川さんに俺は小さくため息をつく。 なんなの? じゃねーよ…… あれもあんたが言った言葉だろ? あの言葉がなかったら、あんたは今頃針を1000本も飲まなくちゃいけなかったんだけどな…… 「ゆびきりの歌、歌いますか?」 「あ……」 顔がどんどん赤くなっていく及川さんに笑みを溢す。 『ゆーびきりげーんまーん 嘘ついたら~ キス1000回 しても~らうっ!』 「キス、1000回……」 そう、キス1000回 ください、及川さん……

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