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第237話

12月22日── 2人っきりでデート…… あの及川さんと2人っきりでデートとか…… 今更だけど、スゲー緊張する。 今まで2回デートしたけど、日向達が一緒でデートっぽくなかったし…… 友達になった今、もうあいつらは来ないだろう。 だから、こうして改めて2人でデートするとか、スゲーヤバイぐらい緊張して、 ヤバイぐらい嬉しい…… 今日は、複雑なぐちゃぐちゃな気持ちは忘れて、及川さんと思いっきり楽しみたい。 ……なんて考えてたら、落ち着かなくなって、ソワソワして、気が付いたら家から飛び出してて…… 待ち合わせ場所の駅前に、随分早く着いてしまった。 「ハァ、ハァハァ……さすがに及川さんはまだ来てねーよな? うぉっ!!」 辺りを見渡しながら息をきらしそう呟いたその瞬間、突然視界が真っ暗になった。 「な、なな、なんだ!?」 「フフフ……だ~れだっ!」 楽しそうに弾んだ甘い声。 誰だなんてこんな質問を俺にするなんて…… 頭がクラクラするような、この甘くて色っぽい声を、他の誰かと聞き間違えるわけないだろ。 俺が口角を上げて正解を答えようとしたら、今度は耳に痛みが走ってきた。 「イっ! ぁ、ぅ……な、何?」 「エロい声……飛雄、ここ外だよ?」 耳元で囁かれ、吐息が触れる。 エロい声はどっちだよ…… この痛みの感触……恐らく耳を甘噛みされたのだろう。 「及川さん、何やってんですか! こんなところで止めてください!」 「あっ! 正解~ そーだよ、正解は及川さんでした。 やっぱり飛雄にはバレバレだったね」 嬉しそうな声でそう言って及川さんは、目隠ししていた手を下の方へと移動させて、 ギュッと後ろから抱き締めてきた。 それにドキドキしながらも恥ずかしくて目を泳がすと、道行く人々がチラチラとこちらを見ているのが視界に映った。 「及川さん……人が見てますよ…… 恥ずかしいんで、離してくださ──ンッ!」 急いで離れようとした時にはもう、及川さんが素早く俺の前へと移動していて…… 気が付いたら唇を塞がれていた。 周囲がざわつきだす…… まさか、こんな大勢の前でキスされるなんて…… 突然のことで動けずに固まっていると、唇を離した及川さんがクスっと笑って俺の唇をゆっくり優しく撫でた。 「フフフ……トビオちゃん顔真っ赤。 かわいい……」 かわいいとか言うからもっと顔が熱くなって、思わず俯いた。 「こんな人前で、何やってんすか……」 「だって飛雄が、俺のためにこんなに早く来てくれたからさ、それがすんごい嬉しくって。 キスしたくなったんだもん…… 仕方ないじゃん」 「何が仕方ないんだよ…… 及川さんこそ、早いじゃないっすか」 「だって飛雄とのデートだよ? 遅刻したくないし、絶対飛雄より早く来たかったんだよね。 待たせたくなかったし、それに何より待ちきれなくてさ…… 気が付いたら家飛び出してた!」 そう言って及川さんはニカッと笑った。 俺と同じだ…… 俺も……待ちきれなくて、朝からソワソワして、 気が付いたら家飛び出してたから…… 「早く来てくれたのは嬉しかったけどさ……お前早すぎ! 危うくお前を待たせるところだったじゃん!」 「いっつも及川さんが先に来てたっすよね…… なんかスゲー悔しい。 次は絶対俺が先に来てるんで!」 「いーーやっ! 次も俺が先に来るからね!」 「いや、ゼッテー俺です!!」 次……次の約束が出来るんだ。 それは、なんて幸せなことなんだろう。 及川さんはもうすぐ東京に行ってしまう。 次…… それは、いつのことなんだろうか…… って、何考えてるんだ。 デートは始まったばっかじゃねーか! 今から考えることは、暗いことじゃなく、楽しいこと! 及川さんと思いっきり楽しむんだ。 だから先ずは…… 「及川さん! 言い合いしてる暇ないっすよ。 ほら、早く行きましょう!」 俺はそう言って、及川さんの手を握った。 及川さんは一瞬驚いたような顔をしたけど、 でも頬を少し赤くして嬉しそうに笑った。 ずっとずっと……デートの時は俺から手を握りたかったんだ。 今日やっと握れた…… 及川さんからじゃなく、俺から握ることに意味があるんだ。 「飛雄に先越されたね。負けてらんない! 今日は思いっきり楽しませてあげるからね!」 及川さんは俺が握った手を引いて、歩き出した。 俺も負けません! 今日はあなたを楽しませてあげますよ、及川さん

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