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第238話

「動物園行こーよ! 飛雄、動物好きでしょ?」 及川さんのこの言葉に、俺の首は縦にしか動かなかった。 自然と嬉しくて口がムズムズと動いてしまう。 それを見て及川さんも嬉しそうにニカッと口角を上げて、繋がれていた手を更に強く握ってきた。 痛いですよなんて言いながらも、ドキドキが止まらなくて。 二人、手を繋いだまま電車に乗る。 自分から繋いだくせに沢山の人々に見られてスゲー恥ずかしくて、顔が上げられない俺に及川さんは小さく声を漏らして笑った。 「飛雄……お前の顔見たいなぁ~顔上げてよ」 「い、今は無理です……」 「へぇ~~そうなんだ? じゃあ今すぐ上げないと、無理矢理上げさせて、チューするよ?」 「なっ! 何言ってんすか!? 人前でさっきからき、キスとか恥ずかしーです!!」 「俺は全然恥ずかしくないよ。 だって飛雄は俺の恋人なんだもん。手ぇー繋いだり、キスしてもいーじゃん」 「こ、恋人同士でも人前でキスとか駄目です!」 顔を熱くさせながら慌てて顔を上げた瞬間、態とらしくチュッと音を立ててキスされた。 ま、また人前でキス!? 「やっと顔上げてくれたから、ご褒美ね♡」 「な、な、ななっ!」 「今度は俺の勝ちだね♪」 「なんの勝負だよ!?」 「さっきはお前に手を握られてドキドキさせられたから、今度はまた俺がキスしてドキドキさせてやったの。 トビオちゃん顔真っ赤にさせちゃって可愛ーね♪ 今日は後何回その顔が見られるかなぁー? 沢山見させてもらうね♡」 こんな電車の中でもドキドキさせられるなんて! やっぱり及川さんにはなかなか勝てないな…… この人こんなこと言って、今日後何回キスしてくるつもりだ? こんな人前でキスされまくったら、恥ずか死ぬ。 「く、クッソー……ま、負けねぇー 次は俺が及川さんの赤面を見てやります!」 「フフフ……それってつまり、飛雄の可愛いところを沢山見れるってことだよね?」 「んでそーなるんすか?」 「だって俺が赤くなることと言えば、飛雄が可愛いことをしてくれた時だけだし。 さっきも手を繋ぐっていう、可愛いことをしてくれちゃったわけだしね♪」 「は、はぁ!?」 手を繋ぐことが可愛い? 「ほら飛雄、着いたよ」 どうやったら及川さんを赤面にさせて、ギャフンと言わせることが出来るのかと考えているうちに、どうやら目的の駅に到着していたようだ。 及川さんに引っ張られ立たされたけど、負けじと俺が前に出て、彼の手を引いて電車をおりる。 「い、行きますよ!」 「お? ハハっ! やる気満々だね」 「クッソー、負けねぇー!」 なんでそんなに余裕なんだ? こっちはこんなにもドキドキしてんのに! 「大人2人です」 可愛い動物いっぱいいるかな? 動物園に着いて、俺がそわそわしているうちに、入園料を及川さんが二人分さっさと払い、俺の手を引いて動物園の中へと入っていく。 「あっ! 及川さん俺の分は自分で払います!」 「そんなことより飛雄、ほらあそこにペンギンがいるよ!」 「え?」 慌てて彼の服の裾を引っ張ると、及川さんが微笑みながら指を差した。 その方へと目線を向けると、沢山のペンギン達の姿が俺の目の中に飛び込んできた。 「あ、あっ! 及川さんペンギン! ペンギンカワイーです!! あそこにいる大きいペンギンとちょっと小さいペンギン見てください! カワイーっすよ! 寄り添ってじっとしてますね! ペンギンも冬は寒いんすかね? あの二匹親子っすかね!??」 ペンギンの可愛さにテンションが上がって、思ったことを一気に捲し立てると、隣で及川さんがクスリと笑う声がした。 「親子じゃなくてカップルじゃない? 俺達みたいだね……」 またそんな恥ずかしいこと言う…… そしてまた俺の顔も熱くなっていく。 クッソー……俺ばっか…… なんて思いながら及川さんの方を見ると、彼の頬も少し赤くなっているように見えた。 「何、及川さん赤くなってるんすか?」 「へ? あーー……飛雄がペンギン見た時の反応が可愛かったからかな?」 そう言って少し恥ずかしそうに笑う及川さんに、口元がムズムズと動く。 そんなことで赤くなるのか? どうやら及川さんは、俺が楽しんでるところを見ると赤くなるようだ…… だったら、今日は思いっきり及川さんと楽しんで、もっともっと赤面にさせてやろうと思った。

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