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第239話

「レッサーパンダスゲー可愛ーっすね及川さん!! 可愛ーすね! ねっ及川さん!」 「レッサーパンダも可愛いけど、お前の方がもっと可愛いよ♡」 「…………そっすか……」 「テレれてる飛雄も可愛い……」 ニッコリと笑って臭い台詞を言ってくる及川さんを恥ずかしさ半分、呆れ半分で睨むと、更に楽しそうに笑われる。 それに赤くなりながら小さくため息を吐いて、またレッサーパンダの方へと視線を戻す。 さっきから俺は、レッサーパンダの所から離れることが出来ない。 他の奴等は寝てるのに、ある一匹のレッサーパンダだけがずっとボールを転がして遊んでいるのだ。 そいつから目が離せず、ずっと釘付け状態だ。 「でもあのボール、サッカーボールっすね…… バレーボールにすればいいのに。 あいつならバレーだって出来そうですよね? あんなにボールが好きなんだし」 「あいつって……あのレッサーパンダはお前の友達か! つーかどんだけレッサーパンダ好きなの? そろそろ別の動物見よーよ……」 「ちょっと待ってください! もう少しいーじゃねーっすか! だってあいつがあんなに楽しそうにボールで遊んでるから、何て言うかシンキンカン? ってやつを感じて」 「せめて漢字で言えるようになろうね……」 「可愛ーすね……」 及川さんの言葉を無視してレッサーパンダの可愛さに見とれていると、飼育員の人が檻の向こう側の扉から出てきた。 「あっ! もしかして餌やりですかね?」 飼育員が屈むと、さっきまでボール遊びしていたレッサーパンダがボールを捨てて、飼育員の元へと走っていく。 他の寝ていたレッサーパンダ達も飛び起きて、飼育員の元へと集まっていく。 「あぁ……バレーより飯の方がいーのか……」 「いやあれバレーボールじゃねーし…… それに飛雄だってバレーも好きだけど、カレー出されたらそっちの方に飛び付くでしょ?」 「うっ……カレーもバレーも大事です……」 「ハハ、飛雄らしいね」 ニンジンを綺麗に食べ終わったレッサーパンダの頭を撫でる飼育員。 あーーズリー……俺も触りてー…… あの毛、スゲー柔らかいんだろーな…… ウズウズと無意識に唇が動く。 そんなことを考えていた俺の頭を、及川さんがフワリと優しく撫でてきた。 「っ!! お、及川さん! 俺はレッサーパンダじゃありません!」 「可愛い……」 「いやだから俺はレッサーパンダじゃねぇー!!」 そんなうっとりした顔で可愛いとか言うな! そう文句を言おうとしたその時、俺がさっきまで見ていた方から、今度はこちらへと沢山の視線を向けられていることに気づいた。 顔を上げると、飼育員とレッサーパンダ達が、 俺が大声を出してしまったことで、こちらを一斉にじっと見ていたのだ。 「つっ!!」 「うわ~……めっちゃ見られてるね…… 俺こんなに動物に見つめられたの初めて」 「俺だって初めてですよ!! 全部及川さんのせーだ!」 「まさか動物達にまで注目されるとはね…… 動物も分かるんだね、俺達がラブラブだってこと」 「ら、ラブッ!! も、もぉ、早く次行きますよ!」 「お前がずっとレッサーパンダばっか見てたんだろ~ 隣に愛する恋人、及川さんがいるってのにさぁー」 「デケー声で、んなこと言わないでください!」 「あれ? 俺のこと愛してないの?」 なんでこんな人がいっぱいで、レッサーパンダ達が見ているとこでそんな質問…… 「愛してないから答えられないの?」 恥ずかしすぎて何も言えない俺に、及川さんがニコニコ顔で、自信満々そうに俺の顔を覗き込んでくる。 そんな顔して…… 俺がなんて答えるか最初から分かってんだろ。 「あんた本当に意地悪だな……」 「トビオちゃんが可愛ーから、つい意地悪しちゃうんだよね。 で、答えはどうなの?」 「分かってんだろーが!」 「え? 及川さん分かんなーい! 全然分かんないなぁー! 飛雄に愛されてないなんてショックだなぁー!」 ニヤニヤしながらそんな大きな声出すなよ! 恥ずかしいだろ!! あーもー! 「あ、愛してますよ!! これでいーすか……?」 「ハハ、愛の告白、ありがとうございまーす♡」 く、クッソぉー……! 「飛雄顔真っ赤で本当に可愛い。ゴメンね意地悪して。 レッサーパンダのぬいぐるみ買ってあげるから許して。 ね?」 嬉しそうな顔で、また俺の顔を覗き込むな! 今あんたの言う通り顔真っ赤なんだから! 「れ、レッサーパンダだけじゃたりません!」 「ハイハイ。なんでも好きなの買ってあげるよ」 そう嬉しそうに笑って俺の手を引いて歩き出す及川さんの後ろを、俺は恥ずかしくて俯いたまま歩く。 「デケーぬいぐるみも欲しいです……」 「ハイハイ♪ キリンでも、ライオンでもなんでも買ってあげるからね!」

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