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第241話

お腹もすいたと言うことで、俺達は売店の隣にあった食堂でご飯を食べることにした。 「トビオちゃ~ん、カレーもあるよぉ~」 「カレーありますか! じゃあ俺カレーにします!」 「ハイハイ。本当に飛雄はカレーが好きだねぇ~」 「ウスッ」 「ふふ……え~とじゃあ俺は塩ラーメンとフライドポテトとフランクフルトにしよ~」 「いっぱい食べますね」 「え? ラーメンとポテトとフランクフルトだけだよ? 普通じゃない? 食後のスイーツも食べたいなぁーとか思ってたのに。牛乳パンがないのが残念……」 「スゲー……」 「飛雄ももう少し食べなよ。 そんなだからヒョロヒョロなんだよ」 「ヒョロヒョロなんかじゃありません! ちゃんと肉も筋肉もついてます!」 「へぇ~? そんなヒョロヒョロな体のどこに筋肉がついてるの?」 及川さんは意地の悪そうな顔でニヤニヤ笑いながら、見せびらかすように肘を曲げて腕に力を入れ、ムキッと力瘤を作る。 モリッとしてて、スゲーとしか言い様のないほどの力瘤…… ま、負けねー! 「むぅ……じゃあ俺は唐揚げとフランクフルト食べます! フランクフルトは2本食べます!!」 「ふふふ……頑張ってね」 「俺だってゴリラボディになってみせます!」 「何それっ! それじゃあまるで俺がゴリラみたいじゃん!」 「ゴリラ以外の何物でもねぇ!」 「俺はゴリラじゃねーけど、飛雄はそのゴリラボディになれるように、精々頑張りな!」 「及川さんみたいなゴリラになってみせます!」 「もうゴリラボディじゃなくて、ゴリラになってるよ!?」 なんて言い合いをしても、なんだかとても楽しかった。 嬉しくて口がまたムズムズと動く。 今日はよくこんな風に胸がポカポカするような、暖かい気持ちになることが多い。 及川さんと二人っきりでデートしてるからだろーな。 ご飯を買って、二人並んで椅子に座る。 フランクフルト……思ったより太くて大きいような…… 1本にすれば良かったか…… いやいやっ! 俺だってこれぐらい食えるし! 「飛雄~本当にそれ食べきれるの? 無理そうだったら及川さんが食べてあげるからね」 「その必要はありません! 俺だってこんぐらい食べれます。 そんで、ゴリラになってみせます!」 「それまだゆーか!」 と、取り合えず唐揚げとかフランクフルトを先に食べて、好きなカレーは後で食うかな…… そう思いながらフランクフルトにかぶりつく。 すると…… 「あっ! イタッ! 痛い痛い!」 「は?」 及川さんが下らへんを押さえながら、突然声をあげた。 「なんすか? どっか痛いんすか?」 「もっと……優しく食べてよ♡」 「はぁ?」 「優しく、厭らしくた・べ・て♡」 「は、はぁ? 何言ってんすか?」 「まだ分かんないの? 思い出してみてよ…… それさ、太くて大きくて、及川さんのに似てるでしょ?」 及川さんのに似てる? そう言われて、フランクフルトをマジマジと見てみる。 「そんなに見つめないでよ♡」 ニヤニヤ厭らしく笑う及川さんとフランクフルトを交互に見て、この人が何を言おうとしているのかやっと気付いた。 「あ、あんたこんなとこで何言ってんだ!」 「今日はトビオちゃんよく顔真っ赤にするねぇ~♡」 「あんたのせーだろ!!」 「フフフフ~」 こんなとこで下ネタ言うとかっ! 人のことからかって、ずっと余裕そうに笑いやがって。 どうにかしてこの人を、ギャフンと言わせたい。 あ……そうだ! そう言えば俺、ずっとデートの時にどうしてもやりたいって思ってたことがあったんだった! あの時の菅原さんの言葉を思い出す。 『やっぱりカップルと言えば、ハイ、あ~~んだろ? 影山から及川にご飯を食べさせてあげるんだよ!』 今まで色々なことがありすぎてなかなか出来ずにいたけど、二人っきりな今ならそれも出来るはずだ! きっとこれをやったら、余裕そうな顔をしてる及川さんも恥ずかしくなると思うし、 ギャフンと言わせることが出来るかも! よ、よーーし…… 「あ、あの及川さん!」 「ん~~?」 「は、はい、あ~~ん!」 「!!」 俺は箸で唐揚げを摘まんで、及川さんの口元へと運んだ。 さっきまでニヤニヤと笑っていた及川さんは、俺の行動に目を見開いている。 「え? え? トビオ、ちゃん……?」 明らかに戸惑っている及川さんの反応に、逆に俺が恥ずかしくなってきた。 「あ、あのえ~と。 及川さんは俺の恋人でしょ? だから、あ~~んするのは当たり前です!」 言い切ってしまった…… メッチャクチャ恥ずかしいけど、でもやっぱり及川さんにしてあげたかったんだ。 及川さんの喜んだ顔が見たかったんだ。 「そっか、当たり前か……ありがとう飛雄」 俺の願った通り及川さんは嬉しそうな、でも照れくさそうに優しく笑って、口を開けてくてた。 「あ~~ん!」 「は、はい、あ~~ん」 ただこれだけのことなのにスゲー緊張して、手が震えた。 唐揚げが及川さんの口の中へと入っていく。 俺が食べさせた物をモグモグと咀嚼してから、ゴクンと飲み込む及川さんが何故かスゲー可愛く見えて、 思わず口角が上がる。 「美味しかった。 ふふ……ただの普通の唐揚げなのに、飛雄にあ~~んしてもらったから、すんごい美味しかったよ」 「味は変わりませんよ?」 「変わるよ。絶対変わる! 俺もあ~~んしてあげる。 そしたら飛雄も分かるよ、どれだけ恋人にあ~んしてもらったものが美味しいか!」 そう言って及川さんがラーメンの中へと箸を入れる。 「麺を人に食べさすのってムズくないっすか?」 「難しくないと思うよ。 箸にこうやって麺を巻き付ければ……ホラ!」 「スゲー!」 パスタをフォークに巻き付けるみたいに、麺をクルクルと巻き付けるなんて、どんだけ器用なんだよ。 「はいトビオちゃん、あ~~ん!」 にこやかに箸に巻き付いたラーメンを差し出してくる及川さんの姿がすごいへんてこで、でもすごい可愛くて 俺までニヤニヤしてしまう。 食べさせてもらったラーメンは、今まで食べた塩ラーメンの中で一番美味しく感じた。 ただご飯を食べてるだけなのに、こんなにも楽しいなんて 及川さんといると、全てのことが幸せで スゲー素敵なことだなって思った……

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