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第244話

電車に乗って移動し、おりた後は及川さんに引っ張られながらひたすら走っていた。 「飛雄、急いで!」 「ハァ、ハァハァ、ハァッ、及川さん、いったい、どこに行くんすか?」 「着いてのお楽しみっ!」 そう笑ってから更に速度を上げる及川さんに、付いていくだけで精一杯。 中学の頃からずっと思ってたけど、 本当にどんな時でもカッコいい。 やっぱり、及川さんには敵わないなぁ…… 「飛雄っ、目閉じて!」 「わっ! え? あっ、ハイっ!」 目的地に着いたのだろうか? 休まずずっと走っていた及川さんが突然足を止めて、声を大にしてそう言ってきた。 俺は慌ててその言葉に従う。 「間に合って良かった。 飛雄、まだ目開けちゃあダメだよ」 「は、はい。あの……間に合ったって、いったい何があるんすか?」 「後もう少しだから待ってね。 ………………3、2、1っ! 良いよ、目開けて!」 「!!」 目を開けた次の瞬間、さっきまで暗かった辺りが、一気に眩い光に包まれた。 「う、うわぁっ! スッゲー……」 道路の両側に並べ植えられた木々たちが、黄金色の光を放ち俺達を迎える。 この美しさに見惚れて笑みを浮かべた俺に、及川さんが嬉しそうに口角を上げた。 「これがもう1つのプレゼント。綺麗でしょ?」 「ハイ! スゲー綺麗ですね……」 「一昨年ここの近くで買い物した帰りにこれ見つけてね、すごい綺麗だったからさ、飛雄と一緒に見れたらいいなってずっと思ってた」 一昨年って、及川さんが高一の時? その時から俺と見たいって思ってくれてたんだ…… 「ダメだって、飛雄とは見れるわけないって思いながらもずっと忘れられなくて、去年も見に来たりしてさ。 これを見たら、すぐに飛雄の顔が浮かんできて…… 今年こそは飛雄と一緒に見れると思って楽しみにしてたんだ。 やっと……やっと、一緒に見れたね。 良かった……」 本当に嬉しそうに微笑む及川さんを見つめていたら、胸がギュッと締め付けられるような感覚がして、だんだん視界が滲んできた。 ……鼻も少しずつ痛くなっていく。 「お、俺も嬉しいです…… 一緒に、見れて良かった……」 自分の気持ちを、そう伝えるだけでいっぱいいっぱいで、泣いてるのバレないように視線をイルミネーションに向ける。 すごい綺麗なのに滲んでてよく見えなくて、もったいないと思った。 せっかく及川さんと見てるのに…… 「飛雄、行こ……」 「……はい……」 静かな声の後、及川さんが俺の手を引いてゆっくりと歩き出し、 並木道の中へと入っていく。 手を引かれながら俺は、必死に涙を拭っていた。 「綺麗だね」 「……はい」 返事することしかできない。 及川さんの言う通りすごい綺麗なはずなのに、ぼやけて見えないなんて…… 必死に堪えてたのに、ついに涙が一滴零れ落ちた。 ヤバい、止めなくちゃいけないのに、そう思っても次から次へと溢れ出していく涙。 「飛雄……せっかくのイルミネーションなのに、誕生日なのに、泣かないで……」 「泣いて、ません……」 「泣いてるじゃん。すごい泣いてる……」 そう言った後及川さんが立ち止まって、優しく頬、目尻に触れる。 12月の寒空の下、及川さんの手の温もりが心地好くて。 もう少しで触れられない所に行ってしまう。 俺はこの温もりを、離したくないのに…… 「おい、かわさ……俺、俺……」 「うん……」 「俺……来年も一緒に、及川さんと一緒にこれ見たい。 また一緒に見たい、です……」 言うつもりなかったのに…… 言ったらもっと悲しくなって、もっと涙が出るって分かってたのに 自然と口から零れ出てしまった。 及川さんの胸に顔をうずめて、背中に腕を回して力を込めて、 強く強く、抱き締めた。 離れたくない……

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