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第245話
及川side
どんな瞬間も
愛しい人を この目に焼き付けていたい……
木々たちが放つ美しい光に照らされて、飛雄の瞳がキラキラと輝き、目が離せない。
綺麗だ……
そう思わずにはいられなかった。
歩を進めても、逸らすことなんて出来ない
横顔をずっと見つめたまま
離れてしまってもその顔を、忘れることないように……
「飛雄……」
あまりの愛しさに思わずそう呟いたその時、見つめていた瞳が揺らめいた。
潤んで、光が反射して
零れ落ちて数が増えていく雫が
まるで宝石のようで……
儚くて、悲しいのに
「綺麗だね」
そう思わずにはいられなくて、触れたくなる
飛雄が泣くと悲しくなって
でも、泣かせてるのは俺なんだ。
「泣かないで……」
「泣いて、ません……」
強がりを見せて不安になって……
これからそうやって一人で泣いてくの?
「泣いてるじゃん。すごい泣いてる……」
触れたくて仕方なかった、その濡れて冷やされた頬に温もりを届ける。
俺の体温を感じてほしい……
俺も我慢なんて出来ないし、しないから。
触れて、温もりをあげるよ
だから飛雄も、俺にその温かさをちょうだい。
「俺……来年も一緒に、及川さんと一緒にこれ見たい。
また一緒に見たい、です……」
望み通り、飛雄が背中に腕を回して、強く抱き締めてくれた。
震えた声に込められた気持ちと、包み込む力
温かい……
俺も迷わず抱き締め返し、飛雄の耳元へ唇を寄せる。
「やっと素直になってくれたね……」
俺はずっと、お前のその素直な言葉がほしかったんだよ。
飛雄は俺の胸にうずめていた顔を上げて、また一滴涙を溢した。
「確かにね、東京へ行くのはやめることは出来ないよ」
「……わ、分かってます。
我が儘言ってごめんなさい……」
顔を逸らし曇った声を出す飛雄に、眉間にシワが無意識に寄った。
「分かってないじゃん!
俺は素直になれって言ったんだよ。
我慢しないで我が儘言っていいんだよ」
「我が儘言ったらあんた困るでしょ?
困らせたり、悩ませたりしたくないんです!」
「なんで?」
「な、なんでって!
好きな人を悩ませたりするなんて、そんなの嫌に決まってんだろ!」
またそうやってお前は、俺のことで悲しそうな顔をする……
「好きな人を悩ませたくないって、それって俺のため?」
「……え? そうですよ?
それ以外に何があるって言うんすか……?」
「なんなのそれ……
そんなのさ、俺のためじゃないだろ!
俺だって嫌だよ!
飛雄が俺のいないところで、俺のこと想って一人で悩んで悲しむなんて、そんなの嫌だよ!!」
俺は飛雄の頬を両手でグッと包み込んで、逸らせないように視線をしっかり捕らえた。
「お前は俺の大切な恋人だよ!
好きだから……大切だからさ、
悩んだ時や悲しい時、涙が出る時もさ、どんなに離れてても一番お前の傍にいたい……
どういう意味か分かるよね?」
額同士をくっ付けて、下へと滑らせた手でそっと
飛雄の胸に 優しく触れる
「我慢しないで……素直な気持ちを俺に全部教えてよ。
俺に何もかもぶつけて。
全て受け止めてあげる。
俺はいつでもこうして、お前の傍にいるんだよ。
お前も俺の傍にいてくれるでしょ?」
今この瞬間も、夜とか目を閉じて最初に浮かんでくるのも……
どんな時でも俺を笑顔にさせるのはお前だけだよ……
「及川さん…… おい、及川さんっっ!!
寂しい……本当はあんたが東京に行くのすごく寂しいんです!!
強がってた……本当は不安で苦しくてどうしようもなくて!
でも、及川さんは俺の目標で、もっと上に行ってほしくて。
そう思ってても、やっぱり離れるのは寂しくて、辛い…んです……
及川さんとずっと、一緒にいたい……」
「飛雄……本当の気持ち教えてくれてありがとう。
飛雄が俺と同じ気持ちで嬉しい……嬉しくて、
それから、俺もすごい寂しい……
寂しいよ飛雄っ!!」
「及川、さん……!」
お互いの気持ちをぶつけ合えて良かった。
もう一人で無理して、我慢しちゃダメだよ
一人じゃない。
ちゃんと俺がいるんだから
ね、飛雄……
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