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第264話

「ねぇ飛雄、 俺、朝ご飯作ったんだよ。 飛雄に俺の作ったご飯また食べてほしくて」 何処に行ってたのかと思ったら そっか……及川さん、俺のためにご飯作ってくれてたんだ…… 及川さんの作ったご飯を食べるのは初めてじゃないのに、それに何故かビックリして、そしてものすごく嬉しかった。 早起きして、俺だけのために…… 「本当は飛雄が起きるまでずっと傍にいてあげたかったんだけど、どうしても食べてほしくて…… 居ても立っても居られなくなって、気がついたらキッチンに立ってたんだよね」 少しはにかみながら笑う及川さんに、胸がきゅぅぅってなった。 しばらく及川さんの手料理食べられなくなるから、今のうちにいっぱい食べたい。 「及川さん、アザッス……」 嬉しさを噛み締めながら深々と頭を下げて、いそいそと服を着る。 そんな俺を見て小さく笑った及川さんは、服を着終わった俺の手をそっと握ってきた。 「え!? なんすか?」 「手ぇ、握っちゃダメなの?」 「ダメなわけないです! でもなんで今握ったのかと思って……」 「ふふっ……いーじゃん。 飛雄と手を繋いで、一緒に行きたいの」 「え? でも、すぐそこで食べるんですよね?」 意味が分からず首を傾げた俺に及川さんはもう片方の手も握って、真っ直ぐ目線を合わせて優しく微笑んだ。 「あのね、これからは飛雄と一緒に行動する時は、ずっと手を繋いでいたいんだよね」 「え? 家の中でも?」 「そりゃ、トイレとかお風呂は繋げないと思うけど。まぁ、お前がそうしてほしいって言うなら繋いであげるけどね」 「なっ! い、いやいやいいっすよ! あ、でも……外でも、っすよね? 人に見られますよ?」 「見られたら何かまずいことでもあるの? 今さら恥ずかしがることは何もないじゃん。 悪いことしてるわけじゃないんだから、堂々としてれば良いんだよ! 周りの人は関係ないじゃん。 俺は飛雄とずっと手を繋いでいたいだけなんだよ。 ダメなの?」 そっか、そうだよな 別に悪いことなんてしてないし、まずいことは何一つない。 他の人なんて関係ない。 及川さんの言う通りだ 何を恥ずかしがってるんだろう…… 「俺は、出来る限り飛雄とずっと繋がってたいんだよ……」 ずっと俺と繋がってたい…… 俺も……俺だって! 「手……ずっと握ってて下さい。 家でも外でも、どんなとこでも……」 俺だって、この温もりずっと感じてたい。 もっと長く……温もりも感触も残るように、永遠に忘れられないように…… 俺の言葉に本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、優しく手を引いて 寝室を出て、ダイニングチェアを引いて導いてくれる。 「飛雄、どうぞ」 「あ、アザッス……」 なんか、動きが紳士的でドキドキしてる。 なんかむず痒い感じ…… ギクシャクとした動きで椅子に座った。 「ふふふ……飛雄をカッコ良くエスコートしてあげたかったんだよねー これで、ここが夜景の見えるレストランとかだったらもっとカッコ良かっただろーけど……残念ながら俺の家で、しかも俺の作ったショボいご飯なんだけどね~」 トーンの下がった声に、俺は激しく首を振った。 「そんな堅苦しいとこになんか行きたくないです! 何処の誰が作ったか分かんねーもんより、及川さんが俺のために作ってくれたご飯の方が何百倍も何千倍も旨いです!」 「……あ、ありがとう……」 顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに、でも嬉しそうに口角を上げる及川さんに、俺も笑顔になる。 「ご、ご飯ついでくるね!」 「あっ!」 そう言って手を離した及川さんに、思わず声が出て、眉が下がってしまう。 ずっとは繋いでられない。彼も出来る限りって言ってたから、仕方ないんだけど。 でも……手がものすごく冷たくなった気がした。 そんな俺に気付いて、彼も眉を下げたけど、その後にんまりと笑ってきた。 「離すのは今だけだよ。また繋ぐから! 繋げる時はいつまでも繋いでいよーね。 さっきは俺から繋いだから、今度は飛雄から繋いでくれるだろーし! 楽しみだね~」 ニヤニヤと笑う彼に顔が熱くなるのを感じながら、当たり前です!って言ってやった。 それにますますニヤニヤしながら、彼はキッチンへと向かう。 豆腐とネギ、キノコの味噌汁に、 黄色く綺麗に巻かれた卵焼き ほうれん草のおひたし…… それらを俺の前に並べてくれる。 「スゲー……完璧な朝食だ……良い匂い、旨そー」 「ハハ……大袈裟だよ」 恥ずかしそうに鼻をかきながら笑う及川さんが可愛い。 「いただきます」 「はい、どうぞ」 俺が食べるのを向かいに座って頬杖ついて、ジッと見つめてくる及川さん。 食べづらいっつーの…… そう思いながら、やっぱり彼はものすごくイケメンで。 そういうポーズも、見つめてくるその顔も 全部がカッコいい…… そして、卵焼き甘くて旨い! 味噌汁もおひたしも、ちょうどよい味付けで、スゲー旨い。 顔良くて料理上手で、運動も出来る…… 「ほんと、カッケェー……」 「ん? なんか言った?」 「旨いです……スゲー旨い……」 「へへ……あんがと……」 そのはにかんだ顔もスゲー可愛くて……もう完璧、最高の彼氏だ。 こんな人が俺の恋人とか…… もう本当に奇跡……幸せなことだなって思う…… そう感じた途端、視界が滲んで 瞳が潤み出す 「本当に旨い、です……」 「え? ちょっと飛雄~、何泣いてんの~? そんなに及川さんと一緒にいられて幸せ?」 優しい微笑みに顔を覗き込まれて、今思っていたことを言い当てられて、 もう嬉しくて、恥ずかしくて、ぐちゃぐちゃだ。 「……及川さんのボゲェ……」 「ハハハ……ごめんね」 謝りながら全部見透かされてる。 なかなかこの人には勝てないけど、いつか絶対、ギャフンと言わせてやる! 「俺も……食べさせてもらってばっかじゃあ申し訳ねーから、及川さんになんか作ってあげたいです!」 「え?」 俺の言葉に彼は、驚いたような顔で目を見開いた。 でも、なんだか、少し残念そう? 「……飛雄、料理出来るの?」 「えっ!? いや……練習して、いつか食べさせてあげたいってだけで…… 今出来なくて、すんません……」 「いやいやっ! お前は出来なくて良いんだよ! 俺が作ってあげるから。俺が飛雄に食べさせてやりたい。 そう思って、いっぱい練習したんだからね」 「俺だって、及川さんに食べさせてやりたい! いっぱい練習します!」 「飛雄には出来ない……俺だけがお前にしてやれることがほしかったのに……」 しょぼんとした顔になった及川さんに慌てて首を振る。 「俺も! 俺だけが及川さんにしてやれることやりたいです! 及川さんだけズルいです! 俺も及川さんに料理食べてほしいです!」 「んも~~トビオちゃんは~~ 飛雄に出来ない、俺だけに出来ることがほしかったのに……仕方ないな~」 「俺もいっぱい練習しますね!」 「んも~~……」 なんて言いながら、及川さんはすごく嬉しそうだった。 及川さんが俺のために何かしてくれたら、俺もそれと同じくらい、いやもっとすごいこと、及川さんが喜んでくれることをいっぱいしてあげたい。 そしたら、彼もまた俺のために頑張ってくれるんだろうな。 そしたら、俺も もっと及川さんが嬉しくなること 喜んでくれることいっぱい探して、見つけるから……

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