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第266話
この人は、俺達のことをいつも心配して、見守ってくれてる。
本当に優しい人だ……
今回のことも、いっぱい心配かけたんだろーな……
「岩泉さん……アザッス……」
「岩ちゃん、あんがと……
あっ、そーそーお土産見て! 日頃の感謝の気持ちを込めて、岩ちゃんにすんごく必要な物買ってきたんだよ!」
「俺に必要な物? んだそれ?
あのクソ川が土産買ってくるとは、随分と成長したじゃねーか!」
「ちょっと、失礼しちゃうな!」
文句を言う及川さんに笑いながら、さっき受け取ったカラフルな土産袋を開けていく岩泉さん。
ガサガサと音を立てながら取り出した物は、可愛らしいウサギの手鏡だった。
それを見た瞬間、岩泉さんの表情がどんどん恐ろしいものへと変化していった。
「ボゲクソ川……んだこれは……?」
「可愛い鏡でしょ? 岩ちゃんにピッタリ♪
岩ちゃんいっつも眉間にシワ寄せてるからねぇ~
せっかくいい男なんだからさ、そんな恐ろしい顔してないで、その鏡を見ながら笑顔の練習した方がいいよ?
もっともっとイケメンになれるように努力しないと、いつまでたっても彼女出来ないよ!」
恐ろしい顔してるのは、及川さんの前だけだと思うんだが……
俺や他の人の前ではいつも笑顔だったし、それに、岩泉さんカッケェーから彼女だって直ぐ出来ると思う。
なんて考えている間に、岩泉さんは素早く及川さんに近付き、思いっきりアッパーを繰り出していた。
「グァッハァァァッッッッ!!!!」
綺麗に宙を舞い、落下していく及川さんを目で追う。
あーあ……
「よけーなお世話だボゲェ!!」
「痛いよもぅっ! 岩ちゃんの野蛮人!!」
「あ゙ぁっ!?」
「あーーあの及川さん! 岩泉さんの土産は、あのカッケェータオルでしたよね?
いつの間に鏡になったんすか?」
もう一度殴りかかろうとする岩泉さんを慌てて止め、及川さんに問い掛ける。
そんな俺の言葉に、岩泉さんはコロッと表情を変えた。
「カッケェータオル? どんなだ?」
「スゲーカッケェー虎のタオルで、及川さんが岩泉さんにピッタリだって言ってましたよ!」
「ほーー……」
「本当にカッケェーから、俺も買いました!」
「そんなカッケェーのか……
んだよ及川、やっぱさっきの女が使うみてーな鏡は冗談だったんだな。
それならもっと早くそっちを出せば殴られずにすんだのに、本当にお前はボゲだな!
ホラッ、ほんもんの土産を出せよホラッ!」
さっきまでとは打って変わって、にこやかに手を差し出す岩泉さんに、何故か及川さんは苦笑いしながら目を逸らした。
「何言ってんのトビオちゃん?
あれはお前とお揃いで買ったタオルじゃん?
……岩ちゃんへのお土産は……本当にあのウサギちゃんの手鏡、だよ?
ハハ……アハハ、アハハハハーー……
あっ! ちょっと!?」
苦笑いしながら立ち去ろうとする及川さんのエナメルバッグを引っ掴んで、中を漁りだす岩泉さん。
タオルを見つけたのか、ニンマリと口角を上げてバッグから手を離した。
「おーーっ、あったあった!
これが影山の言うカッケェータオルか!」
「あーー!! 返してよ岩ちゃんっ!
それは飛雄とお揃いのタオルなんだよ!」
タオルを取り返そうとする手をかわし、岩泉さんがタオルの柄を確認する。
それを見た瞬間、岩泉さんの瞳がキラキラと輝きだした。
「うおーーっ!
この虎、マジでカッケェーな!」
「でしょ! カッケェーっすよね!」
「えっ! 岩ちゃんもそのタオルカッコいいと思うの!?
飛雄と岩ちゃんの趣味が一緒って……なんか複雑……」
げっそりとした顔で俺達を見つめる及川さんに、岩泉さんが嬉しそうに笑顔を向ける。
「及川、ありがとさん!
このタオル、大事に使ってやるよ!」
「えーーっ!! 本当に返してよ岩ちゃん!
そのタオルは、飛雄とお揃いなんだよ!!
これじゃあ飛雄と岩ちゃんがお揃いになっちゃうじゃん!
そんなの絶対すんごい嫌なんですけど!!」
「影山! お揃いのタオル、大切に使おうな!」
「ウッス!」
「ウッスじゃなぁーーーーいっ!!
飛雄は岩ちゃんとお揃いがいーの?
及川さんとお揃いの方が良いでしょ!?
飛雄のぶぁーーーーかぁっ!!」
悔しそうに涙ぐむ及川さんに、二人で爆笑する。
こういうのって本当に楽しいな……
仲の良い二人を見て、こうやって笑って
いつまでも、いつまでも……
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