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第269話

及川side ずっと手を握って、繋がっていよう…… あの日そう約束してから、俺達は何処へ行くにも手を繋いで、離れず一緒に行動していた。 色んな人に見られても、騒がれても 陰でこそこそ言われてるのが目に付いても。 離れたりしない。 周りの人々なんてどうでもいい、関係無い。 俺達はただ繋がっていたい 一番近くでお互いの体温を感じていたいだけ。 スーパーに着いて、自動ドアのすぐ近くに置かれていた買い物カゴを手に取ると、飛雄が少し慌てたようにそのカゴに手を伸ばしてきた。 「あ、及川さん、俺が持ちますよ!」 「え? 良いよ。重たい物は彼氏である俺が持つべきでしょ?」 「俺だって及川さんの彼氏ですよ」 自信満々に言われたその言葉に、今更だけどドキッと来てしまった。 そうだね。確かにお前は俺の彼氏だ。 だけど、 「ここは譲ってよ飛雄。 お前の前でスマートにカゴ持ってあげて、カッコ良く見せたかったんだよ…… カッコつけさせてよ」 「及川さんは十分カッケーっすよ」 また自信満々に、当たり前だって言うように言われて、顔が熱くなる。 飛雄といるといつもドキドキしっぱなしだ。 ずっと一緒にいるのに、未だにこんなドキドキして バレーでは絶対負けないけど、こう言うことでは一生こいつには勝てないような気がする。 だけど、飛雄の照れ顔が見たいから、ちょっと意地悪しちゃお。 「そうだね……そのカッケー及川さんだからこそ好きになったんだもんね~~」 にんまりと笑って顔を覗き込んでやったら、飛雄は俺の思惑通り顔を赤らめて、唇を尖らせた。 ん~~~~っ、これこれ! この顔堪んない! 可愛すぎる 可愛さの余りキスしたくなって、そっと飛雄の頬に触れようとしたが、 それよりも早く、飛雄が俺の手を引っ張って早足で歩き出した。 「わっ! 早いよ飛雄~~ もぉーー、照れちゃってカワイッ」 「べ、別に照れてねーです!」 「照れてんじゃん。耳まで真っ赤なくせに」 飛雄は慌てて、あいてる方の手で耳を隠した。 もう片方は、俺が手を離さないから隠せないね。 残念でした~ 「うっせーっす! 及川さんのボゲェ! それに! 好きなのはカッケーからだけじゃありませんよ! 及川さんの笑った顔や怒った顔ももちろんっすけど、ニヤニヤ厭らしい顔とか」 「ちょっと、何ニヤニヤ厭らしい顔って! 失礼しちゃうな!」 「そのバランスの良い綺麗な筋肉のついた、逞しい体とか」 「えっ!? ま、まあね! 筋肉には自信ありだよ……なんか恥ずかしいな……」 「後、意地悪されるのスゲームカつくけど、なんか胸グァーーってさせてくれるとことか、 俺のこと呼んでくれる甘ったるい声とかも、好きです!」 な、何それもぉっ!  照れ顔見たいって思ってたのに、そんな告白されたら、こっちが照れちゃうじゃん! こんなにも飛雄にときめかされて 俺、もう、ドキドキしすぎて、壊れそうだ でも……飛雄って俺に意地悪されるの怒りながら、ドキドキしてくれてたの? 胸グァーって……そんな喜んでくれてたんだ…… あと…… 「……飛雄っ」 飛雄を抱きしめる時、見つめる時とかに出すような、甘く、愛しさを込めた声で名前を呼んであげた。 この声が好きなんでしょ…… 引っ張っていた飛雄の手が、ピクリと震えた。 振り向いた飛雄の顔は、さっきより更に真っ赤に染まっていた。 「こ、こんな店の中で、そんな声出すなボゲェっ!!」 「ハハっ」 「笑うなボゲェ!」 可愛い……そうやって、恥ずかしそうに照れて怒る飛雄が…… 飛雄が真っ赤になって怒り叫ぶ度に、周囲の客達がチラチラとこちらを見てくる。 恥ずかしいなんて気持ちはない。 それを見られてることが、嬉しいと感じてる自分がいる。 飛雄は俺の恋人だぞ!  俺には、こんなにも可愛い恋人がいるんだ。 どうだ! 羨ましいだろ! って、自慢してるみたい 赤面なまま俺の手を引いて、黙々と突き進んで行く飛雄。 じゃがいもやニンジンのある野菜売り場を通り越して、何かを探して進んでいるようだ。 どうせ買うんだから、カゴに入れていけば良いのに。 「あっ、及川さん! ありましたよ!」 とびっきりの笑顔で振り返った飛雄の眩しさに、クラっとさせられる。 何かを手に取って、可愛い笑顔で俺に見せてくれる。 「ほらっ! カレールーです!」 キラキラと光る瞳に心が奪われて、カレールーが視界に映らなくなる。 どんな物よりも先に、カレールーを取りに行く。 飛雄らしくて、笑みが絶えない。 「こいつがいなかったら、カレーは何も始まりません! こいつが主役です!」 まるでカレールーが友達みたいな言い方だね。 あー可愛いっ 「及川さんっ! 卵! 卵も買いましょう!! 温玉作りましょうよ!」 「うん……もう、何でも作ろう……作っちゃおう……」 俺の手を引き、卵を求めて歩き出す飛雄の背中を見つめる。 もうこの買い物が楽しい、早くカレー食べたいって気持ちが伝わってきて、口角が上がりすぎて痛い。 飛雄が食材を取って、俺が差し出したカゴに入れていく。 手を繋いだまま、店内を仲良く回る。 これってもう、新婚さんみたい。 俺達もう結婚してるみたい。 すごく楽しくて、すごく幸せ

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