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第273話
「ハイ、で~きたっ! 食べよ飛雄!」
出来上がった熱々のカレーとご飯を皿に盛り付けて、その上にトロッと温玉を乗せる。
丁度良い半熟。皿を揺らすとプルプルっと揺れて、キラリと光っている。
カレーもものすごく良い匂いがして、美味しそうで。
カレーも作れて、丁度良い半熟の温玉も作れる……
「す、スゲー、及川さん……あんた本当にスゲーよ……」
「別にすごくないって……てゆーか、お前そろそろ泣き止んだら?」
一向に泣き止まず、ずっと涙を流し続ける俺に、及川さんは苦笑しながら俺の頭を撫でた。
「ずんません……涙、止まんなくで……」
「もぉ~……泣き顔も可愛いけどさ、俺はお前の笑った顔が見ていたいのに……」
「……ずっ、ずっ……ずんまぜん…」
頭を撫でてくれる及川さんの手が暖かくて心地よすぎて、もっと涙が溢れてしまう。
及川さんは俺の笑った顔が見たいのに、ダメだ涙が止まらねぇ。
「せっかくカレー出来たんだしさ、冷めないうちに食べよーよ。
飛雄のために作ったんだよ! お前が食べなきゃ意味ないよ」
俺のために……その言葉が嬉しすぎて、あぁもぉ、また沢山涙が溢れてくるじゃねーか……
涙を拭いながらリビングのソファーに座って、及川さんがついでくれたカレーをスプーンで口に運ぶ。
なんだこれ……めっちゃくちゃ
「スゲー、うまい……」
「へへ……あんがと」
本当に美味しすぎて、無意識に口から溢れ出た言葉。
照れ臭そうにお礼を言う及川さんに、キュンっと胸が音をたてた。
「あの日も、すんごい美味しそうに食べてくれたよね……
嬉しかったなぁ~……」
しみじみといった感じで、懐かしそうに及川さんが目を細めた。
「あの時も、お前のこと考えながら頑張って作ったからさ。気持ち伝われーって、思い込めて作ったから、お前が美味しそうに食べてくれたの、本当にすんごい嬉しかった……」
そう、あの日の及川さんは、本当に嬉しそうに笑ってたな。
そして、可愛いって初めて言ってくれた。
男なのに可愛いとか、恥ずかしかったけど、でも恥ずかしくて怒りながらも、本当は心の中で喜んでる自分もいた……
今も言われると恥ずかしいけど、でも大好きなあなたに言われるなら、いくら恥ずかしくても、嬉しい気持ちで満たされてしまう。
恋人が使うとどんな言葉も
魔法のように輝く
あの日から、俺達のこの関係が始まったんだ。
「お前が俺と同じ気持ちだって、好きだって言ってくれた時はさ、もう死にそうなぐらい嬉しかった!」
「ダメです死んじゃあ!!」
「ハハハ、当たり前じゃん。飛雄とせっかく付き合えたんだ。そんなもったいないことに絶対させないよ!」
目を閉じて、彼は少し長く息を吐き出した。
そして、口元に笑みを浮かべてから、ゆっくりと目を開ける。
「付き合いだしてから、色んなことあったよね……」
「そーすね……」
「チビちゃんやメガネくんが飛雄のこと好きだって知った時は、もうすんごい焦ったよ!」
突然出てきた二人の名前に、思わずふき出しそうになった。
「な、何に焦るって言うんすか!?」
「だって……俺は違う学校だから、ずっと飛雄の傍にいられないじゃん?
なのに、二人は飛雄の傍にいられるし、チビちゃんは飛雄の相棒だからさ、特別じゃん?
同じ学校、チームメイトのメガネくんでさえ不安なのに、相棒とかもう焦るに決まってんじゃん!」
唇を尖らせながらいじける及川さんに、ため息が出た。
「特別ってあんたなぁ……
そりゃ日向はあんたの言う通り相棒で特別ではありますけど、」
「ほらーー! 特別だぁーー!」
「特別でも、色々と種類があるんすよ?
俺にとって父さんと母さんだって特別ですし。
及川さんは、俺の大好きな人で、恋人って言う特別な存在なんです!」
強めの口調でそう言ってやると、彼は思いっきりにんまりと口角を上げた。
「そうなの!
俺は飛雄にとって、愛する特別な人なの!」
「うっ……そーすよ……」
そうなんだけど、なんか本人にそう言われると、ちょっと照れるな……
「分かってる、それは分かってるんだけどさ……ただ……飛雄の学校生活を一緒に楽しめる、チビちゃんとメガネくんが羨ましかっただけなんだよね……
同じ学校に行っても、俺は2つも年が上だからね。三年間ずっと一緒にはいられないじゃん?
だから、二人にヤキモチやいてたんだ」
まさかそんな風に思っていただなんて……
それでも学校以外の時は、時間の許す限り及川さんと一緒にいたのに。
でも……俺も、及川さんと会えない時は、いっつも及川さんのこと考えていたな。
今何してるんだろって……
「しかも、二人だけじゃなく、梓ちゃんまで現れるし……」
「でも、新藤さんは及川さん狙いでしたけどね」
「うっ、で、でもさ! 最初は梓ちゃんは飛雄が好きって言ってたからさ、もう飛雄モテすぎでしょ! ってすんごい焦ったんだからね!!」
「モテすぎなのはあんたでしょ!
いっつもいっつも女達に囲まれやがって!
それを見て俺がどんな気持ちだったか分かってんのかよ!?」
そう捲し立てると、彼は本当に申し訳なさそうな顔で、眉を下げながら俺を真っ直ぐ見つめてきた。
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