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第274話

「それで、お前を沢山傷付けて、沢山泣かせたね…… 俺、お前の悲しそうな顔見るの大嫌いなのに、いっつも俺がお前を悲しませてた……ごめんね」 悲しそうな声で俯いた彼に、俺は勢い良く立ち上がった。 「俺だってあんたが悲しいのやです! 顔上げてください!」 俺の頼みに、彼は慌てたように顔を上げてくれた。 その顔は、今にも泣き出しそうに見えて、俺はそっと近付き彼を抱き締めた。 「悲しいの嫌とか言いながら、なんて顔してんだよ……泣かないでください、及川さんのボゲェ……」 「泣いてないよ飛雄のぼけぇ……」 そっと俺の胸に顔をうずめて、抱き締め返してくれた及川さんを、更に強く抱き締める。 「俺、あんたが女達に囲まれてるの見るのスゲー嫌だったけど、毎日烏野まで迎えに来てくれるの嬉しくて、部活中も落ち着かなくて、よく日向達にソワソワしすぎとか言われるほど嬉しかったんです」 部活が終わったら及川さんが来てくれる。 大好きなバレーの後に、大好きな及川さんにすぐ会えるなんて……こんなにずっと嬉しいことが続いても良いのかな?って思ってしまうほど…… 明日から及川さんは東京で、もう迎えに来てはくれない。 当たり前のように来てくれていたのに、もうそれもなくなってしまう。 「いつも迎えに来てくれて、アザっした」 本当に感謝してる…… その気持ちを込めて礼を言うと、彼が顔を上げて首を振った。 「ありがとうじゃないよ! 俺がお前に会いたかったんだ! 毎日お前に会いに行くの、すんごく楽しみで。 飛雄が俺を待ってくれてるって思ったら、ノロノロ歩くのはもったいないって、思わず烏野まで走っちゃうぐらいお前に会いたかった!」 そう一気に言ったとこで、及川さんはまたあの優しい笑みを浮かべて、俺の頬を両手で包み込んだ。 「今までいっぱい、お前とは沢山色々なことがあったね…… 沢山泣かせて、悲しませたこともあった。辛い思いもいっぱいして、でもお前が笑ってくれると、どんなに辛くても胸がポカポカして、俺も笑顔になれた。 照れた真っ赤な顔、怒った顔、甘い声で俺の名前を呼んでくれる時の顔とか、いつだって、どんなお前も大好き。 本当に今まで沢山色んなことあったけどさ、お前と過ごせた毎日は俺にとってすんごい大切な宝物だよ」 優しい笑顔で、なんでそんな泣けて嬉しいこと、いっぱい言ってくれるんだよ。 「俺だってあんたが大好きです! どんなあんたも! 沢山泣かされたって怒って喧嘩しても、あんたに抱き締めてもらったら、名前読んでもらったら、どんなあんただって受け入れられる! どんな時も幸せでした! 好きで好きで、これからもずっと大好きな人です!!」 あぁ、もう! せっかく止まってくれた涙が、また溢れだしたじゃねーか! あんたが好きすぎて、気持ちが膨れ上がって、爆発しそうだ。 「そうだよ。これからもずっと愛してる。 今まで本当に幸せだった。でも、それを過去になんてしない。 お前にはこれからも、幸せでいてもらう! お前は俺が大好きなんだ!」 「はい! 大好きです!」 「だったら、大丈夫! 俺もこれからも、離れててもずっとお前のこと大好きだからさ、愛してるからさ だから、俺達はずっと幸せだ」 「幸せ……」 「そ。幸せ。 こんなに大好きな人に大好きだってこれからも思ってもらえるんだもん。 もう怖いことも不安なことなんて何もないよ。 俺達はこれからも、大丈夫だよ ねっ、飛雄!」 不安なことはいっぱいある。 及川さんと離れて、きっと沢山寂しい思いをすることになるだろう。 恋しくて、涙を流す日も絶対にあると思う。 それでも、あなたがこれからも俺を愛していてくれるなら…… 俺のことを考えて、幸せな気持ちになってくれるなら あなたが大丈夫だって言うなら 俺達は絶対にこれからもずっと幸せだ…… 「へへへ……」 彼が頬を赤くさせて笑ったから、俺も一緒に笑顔になれる。 また強く抱き締めあって、笑いあった。 そして、彼が作ってくれたカレーを食べる。 完全に冷めてしまっていたけど、すごく美味しくて、幸せな味がした。 及川さんは明日、東京へ行ってしまう。 寂しくないって言ったら嘘になるけど 俺達はずっとお互いを思い続けて 愛し合っているから 大丈夫だ これからもずっと幸せです……

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