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第277話

もう少しで及川さんが、俺の手が届かないところに 東京へ旅立ってしまう…… 新幹線のアナウンスに、一瞬目の前が真っ暗になった。 泣かないように、笑顔で見送ろうと思っていたのに、やっぱり俺は泣いてしまった。 涙が頬を止めどなく濡らして、笑顔で、笑顔で、と思えば思うほど溢れていって。 そっと、及川さんの暖かい手が、涙で濡れた頬を包み込む。 「……飛雄……」 「おい、かわさ…ん……っ…」 あなたの笑顔が大好きなのに、どおして俺はこんなにも彼の顔を悲しみに染まらせてしまうんだろう。 ついに、及川さんの瞳からも、涙が溢れて、零れてしまった。 「あぁ、もう……泣かないって決めてたのに……飛雄にずっと笑顔を見せてあげたかったのに、泣いちゃった…… お前の前では、ずっとカッコいい、綺麗な俺でいたかったのにさ……」 そう言って泣きながら笑った彼は、 やっぱり俺にとって一番カッコ良くて 綺麗な人だと、心の奥底からそう思わずにはいられなかった。 「ねぇ、飛雄……あの時の、俺達の気持ちが通じ合った、付き合い始めたあの日に飛雄が言った言葉 覚えてる……?」 「俺が言った、言葉?」 「そう。飛雄が俺に言ってくれた言葉……すんごい嬉しかった…… 今でもね、鮮明に思い出すことが出来るほど、嬉しかったんだよ……」 彼はそう言って、とても穏やかに優しく微笑んだ。 その笑顔はとても綺麗で、眦に浮かんだ涙がキラキラと輝いて、より一層彼を際立たせた。 「お前は俺にこう言ってくれたんだ。 心と心はずっと繋がってる どんなに二人が離れていても 心は及川さんの傍にいます……」 あ……そうだ……それは俺が言った言葉だ…… 自分は確かに、あの時そう及川さんに伝えた あなたはそれをずっと覚えていてくれた…… どうしよう……もっと、涙が溢れてしまった これは絶対止まらない…… 「及、川さんっ……覚えてます……俺がそう言ったんだ……」 「あれから、飛雄の心はずっと俺の中にあって、俺の心はお前の中にあった……違う?」 「ち、違いません!!」 激しく首を振ると、彼がまた一つ雫を溢して笑った。 「お前のことが好きだった……中学の時から。 初恋だった……」 「俺もです! 俺の初恋も及川さんです!」 「……うん 初恋は叶わないもの……飛雄を好きじゃダメなんだ。 そう自分に言い聞かせて、苦しんで、もがいて泣いて…… それでもずっと好きだった 諦められなかった」 口元に浮かべた笑み 切ないことを言っているのに、彼の表情は晴れやかで、落ち着いていた。 「ずっと好きで忘れられなかった、苦しかったあの2年間……」 俺もあなたを泣きながら思い続けた2年間でした…… 「お前を好きじゃいけない、想ってはいけないと言い聞かせた2年間だった でもね……」 俺の頬を包み込んでいた愛しい手が、背中に回されて、力強く抱き寄せられる。 「これからの俺達の2年間は、お互いを想い続けても良い、 好きでいても良い2年間なんだ!!」 「…………っ!」 そうだ……あの片想いだった、あの2年間とは違う。 想い続けても、愛し求めても良い2年間…… 「ねぇ、飛雄……高校卒業したらさ、お前も東京に来るんでしょ?」 「はいっ! 当たり前です! 及川さんの隣にずっといたい。 恋人で、でもバレーではライバルで! 追い付きたい、そして、いつかは追い越したい。 ずっと一緒に走っていたい…… だから俺だって、東京に行くに決まってます!」 「やっぱり! だったら、2年間待ってる…… あっ! ただ待ってるだけじゃないよ!  俺は走り続ける。もっと強くなって、大人になって、ずっとお前の目標でい続けてやる!」 「負けません!」 彼の胸にうずめていた顔を上げて、二人で笑い見つめ合う。 「へへへ……飛雄の笑顔見れた」 「あ……俺も及川さんの笑顔見れました」 綺麗だ…… あなたは、俺の中で一番の大きな存在で、 あなたと一緒にいると、泣けてきて、 でもいつも笑顔にしてくれる…… 「飛雄、毎日メールするね!」 「……はい」 「おはようとおやすみのメールは絶対!」 「……はい」 「どんなことでもメールして!」 「例えばなんです?」 「例えば……今日は良い天気だねとか! で、空の写真送って!」 「ハハ……なんすかそれ」 「そうしたら俺も東京の空の写真送るから! それから、今日は何食べたとかさ、日記みたいな、そんなメールでいーんだよ。 毎日毎日、お前のこといっぱい知りたいし、俺のことも知ってほしい…… で、電話もいっぱいする!」 「……はいっ」 「それで、お前のこと毎日いっぱい考えて、いつも想ってる…… 心と心はずっと繋がってる どんなに二人が離れていても、心は飛雄の傍にいるよ!」 『間もなく、発車します』 新幹線のアナウンス 「及川さん! 及川さん!!」 あぁ、また、涙が…… 「飛雄、笑って……!」 及川さんが涙を流しながら、笑顔を見せてくれる。 だから、俺も泣きながらでもいい あなたに笑顔の俺を見てほしい あなたの瞳に綺麗に映りたい 及川さんの唇が俺の唇に触れる 優しくて、甘い、キス…… そして、及川さんは新幹線の中へと入っていく。 振り返った彼の涙 俺は駆け出し、彼に近付き、 乱暴に、勢い良くキスをし返した 歯と歯がぶつかって、音が鳴って すごい痛かったけど、幸せなキスだった 身体を離して、 及川さんの顔を見ると 口を手で押さえながら、涙を流して 笑ってくれていた…… 新幹線の扉がゆっくりと閉まる 「及川さん!! ずっと一緒です!!」 新幹線が走り出して どんどん離れていく及川さん 及川さん 及川さん 及川さん……ずっと傍にいます 心と心は 今もこれからも 繋がってる

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