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第280話

しばらくお互い顔を赤くさせて沈黙していると、 「ちょっと、何顔赤くしてんの影山?」 突然横からいつもの聞きなれた声に話し掛けられて、慌てて俺も顔を手で隠した。 「あっ! う……つ、月島……」 「黛先輩も顔赤いですね……二人で何してたんですか?」 月島が眉間にシワを寄せて、訝しげな目で俺達を見てくる。 月島はこの人のこと知ってんだな。 つーか、月島が先輩呼びするってことは、この人3年か……敬語使ってて良かった…… 黛先輩は焦った面持ちで、ぎこちなく口角を上げた。 「なっ、何って、別に普通に話してただけだけど?」 「へぇーー……そーなんですかぁ?」 「なんだよその目は?」 「いつもこんな目でーす」 黛先輩はさっきまで楽しそうに笑っていたのに、今は思いっきり眉間にシワを寄せて月島を睨んでいた。 月島も同じように黛先輩を睨む。 この二人、仲悪いのか? 「おーーーーいっ! 月島ぁー影山ぁー!!」 二人が醸し出す険悪な空気に、思わず俺まで眉間にシワを寄せていると、間抜けなばかでかい声で俺達を呼びながら、日向がものすごいスピードでこちらへ走ってきた。 「…………じゃあ影山、俺もう行くわ……」 「え? あ、ウッス!」 日向の姿が見えた途端、黛先輩は何故か大きなため息を吐いて、俺の肩にポンっと手を置いてから、立ち去って行った。 慌てて頭を下げて彼を見送っていると、さっき黛先輩に触れられた方の肩に、月島がまるでゴミを払い除けるかのようにサッサッと手を滑らせた。 「おい、それ、黛先輩に失礼だろ?」 「君の肩にゴミがついてたから、払い除けてあげただけだよ……」 「………」 なんだか、月島の顔が怖い…… 思わず尻込みしてしまうほどの表情に、一歩後退りしたところで、息を切らせた日向が俺達の傍までやってきた。 「はぁ、はぁ……やっと追い付いた……」 「遅いよ日向……」 「ゴメンゴメン!」 さっきまで険しい表情をしていたのに、日向が来てからの月島は、どことなく優しい顔になったような気がする。 「つーか、さっきのって黛さんだったよな?」 「日向、お前も黛先輩知ってんのか?」 日向の口から出た黛先輩の名前に驚いていると、日向が呆れたようにため息を吐いた。 「影山は相変わらず、バレーのこと以外に関心がないのな…… あの人は確か、サッカー部のキャプテンで、背が高くてイケメンで、サッカーももうメッチャクチャ上手いって、クラスの女子が騒いでたよ。 とにかくスゲーモテるみたいだなあの人」 「まあ……大王様ほどじゃないと思うけどね」 日向の説明に、ふ~ん、と相づちを打っていると、月島がボソリと独り言のように呟いた。 その言葉を聞いた途端、顔が熱くなっていく。 日向はニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。 「へぇ~~~~あの月島が大王様を褒めるなんてねぇ~~ほ~~ふ~~ん」 「日向、顔がウザい……」 ケラケラと笑う日向と、少し顔を赤くさせる月島。 確かにあの月島が及川さんを褒めるなんてな…… でも……黛先輩は、スゲー人らしいけど、及川さんの方がやっぱりスゲーんだな…… 及川さんバレーメチャクチャうめーし、カッケーもんな! 唇がムズムズと動いてしまうのを止められないでいると、月島に何故か突然頭をポンっと叩かれた。 「なっ! んだよ月島!」 「なんか嬉しそうにしてるけどさ、大王様に余計なこと言わない方がいいよ」 「え? 余計なこと?」 「黛先輩って言う人と話した~とか、余計なことを言わなくても良いんだからね。 大王様の心を乱すって言うか、心配させるようなことを、一々言わなくても良いってこと!」 「そうだな……そんなこと言ったら、大王様スゲー心配すると思うし、絶対に言うなよ! 大王様には、俺達が傍にいてくれるから心強いです! 安心出来ます! とでも言っとけ!」 「んでそんなこと言わねーといけねーんだボゲェ!」 そう日向を怒鳴りながらも、二人がいてくれることは、まあ、心強いかもな……なんて思わないこともない…… それに、なんで二人がこんなこと言うのかよく分からないけど、でももし本当に及川さんにそれを言って、彼が心配するんだとしたら、そんなの嫌だ! 及川さんにはいつも、笑っててほしいから。 だから、及川さんには黛先輩のことは言わないようにしよう。

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