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第282話
写メを送ったその日の夜、及川さんから早速電話がかかってきた。
しかもテンションが高すぎて、鼓膜が破れるんじゃないかってほどの声で。
『カワイー飛雄の写真ありがと~!!
なんかいらないもんまで写ってるけど、この頬っぺが赤くなってるとこがものすんごくカワイー!』
「か、可愛くねーです! それより一緒に写ってる桜はどーっすか?」
『桜? 綺麗だね。それよりほんとこの飛雄カワイ~。毎日見ちゃう!』
一番桜を見てほしかったのに、なんか俺ばっか見て可愛い可愛いって言ってくるから、スゲー恥ずかしい。
だから、慌てて話題を変えることにした。
「そ、そー言えば、最近日向と月島がいつの間にかスゲー仲良くなってるんすよ!
月島は前まで人に何かをやるような奴じゃなかったのに、日向があんまんやケーキをもらったって言ってました!」
『へ~~そーなんだ……』
「写真撮る時も、最初はパスとか言ってたのに、日向が誘ったらすんなり一緒に写ってくれて。
あの二人の間になんかふわふわした、良い雰囲気? が、漂ってるっつーか……
なんか、日向はいつも通りだと思うんすけど、月島がなんか変っつーか……なんと言うか……」
『へ~~あの二人がね……なるほどねぇ~……』
「なんすかその含みのある言い方」
『ん~~? 仲が良いってのは良いことじゃん?』
「それはそーなんすけど、あの二人を見てると、なんつーか……すごく寂しいような、羨ましくなるっつーか……
なんか頭ん中ぐちゃぐちゃです」
自分でもよく分からない複雑な気持ち。
こっちは混乱してるのに、彼は何故だか楽しそうに笑った。
『二人の関係が変わっても、お前達が友達ってのは変わらない。ああやって一緒に写真撮ってくれるし、困った時はいつでも助けてくれるよ。あの二人なら』
自分でもよく分かってなかったけど、及川さんにそう言われて、なんだかその言葉が胸の中にストンとおさまった、そんな気がした。
月島が変わって、二人がスゲー仲良くなって、なんか俺だけが置いてきぼりにされた。そうじゃないって分かってるけど、そんな気持ちになってたんだ。
でも、及川さんの言う通り二人は俺の友達。 それは絶対に変わらないんだ……
及川さんの言葉は魔法の言葉。
モヤモヤしてた心をいつも簡単に晴れにしてくれて、笑顔にしてくれる。
「及川さん、あざッス……」
『しかしさぁ、トビオちゃんは二人がラブラブしてんの見て、自分も及川さんとラブラブしたい~~って思っちゃったのかな?』
さっきすごく良いこと言ってくれたのに、今の言葉で全てが台無しだ。
絶対になんか悪いこと考えてる。よくやってたあのニヤニヤ顔で笑ってるんだ。
「な、なんすか二人がラブラブって!? 意味分かんねぇー!」
『フフフ……トビオちゃん、よしよし……』
突然とびっきりの甘い優しい声でそう囁いてくるもんだから、胸が大きく高鳴り出してしまった。
「と、突然よしよしってなんすか!?
子供扱いしないでください!」
『お前は子供じゃなくて、俺の恋人だろ?』
「……っ!」
そうだよ。
そうなんだけど、そんな風に言われたら……
『可愛い恋人の頭を撫でてやりたくなったんだよ……
だから、撫でてあげる』
「な、撫でるとか、電話じゃあ無理っすね……」
そう自分で言ったくせに、その言葉で高鳴っていた胸が痛み出した。
それに気付いたのか及川さんは、柔らかい声で笑った。
『そんなことないよ。想像してみてよ、俺に頭撫でられてるとこ』
「そ、想像……? えっと……」
まだ及川さんが傍にいてくれた、頭を撫でてくれた時のことを思い出す。
いつも優しく、俺の頭に触れてくれてた……
『飛雄……よしよし』
甘い声で、撫でてくれて
あの長くて、男らしいゴツゴツした太い指で、髪をすいてくれる……
本当は触れてないはずなのに、
気持ち良くて、くすぐったくて、ムズムズして
自然と口角が上がった
ほらもう、愛しい手が、俺に愛おしそうに触れている……
『飛雄、気持ちい?』
「はい……気持ちいいです……」
『ふふ……かわい…』
無意識に溢れ落ちた言葉に、彼が嬉しそうな声を出す。
彼は傍にいないのに、遠くにいるのに、
ずっとこうして傍にいて、頭を撫でてくれてたみたい。
「及川さん……」
『ずっと、ずっとこうしてたいな……』
「俺も、ずっと触れててほしい……」
『フフフ……
あっ、もうこんな時間だ……飛雄、そろそろ切らなくちゃ……』
切ると言う彼の声で、現実に引き戻される。
頭に触れていた愛しい手が、一瞬にして消えていく。
途端に、ものすごく胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
苦しくて、寂しくなって……
無意識に胸に手を押し当てた。
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