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第283話

携帯を握る手に、無意識に力がこもる。 そんな俺の気持ちに気付いていないのか、彼は楽しそうな弾んだ声で言葉を続けた。 『今日は良い夢が見れそうだよ』 「……え?」 『飛雄の頭よしよし出来たし、これから貰ったこの可愛い写真でオナニーするからさ!』 「なっ!!? ちょっ、及川さん!?」 『じゃ~ね~飛雄。愛してるよ』 彼は楽しそうな声で俺に愛の言葉を届けた後、プツリと電話を切ってしまった。 「及川さんのクソボゲェェェっっ!!!!」 頭にカァッと一気に熱がたまって、思わず携帯に向かって怒鳴ったけど、返事なんか帰ってくるわけもなく、虚しく不通音が鳴っているだけ。 乱暴に携帯をベッドへ向かって叩きつけ、勢い良く枕に顔を埋める。 「んだよオナニーって……しかも俺の写真で…とか……」 本当にあの写真でオナニーするんだろうか? 顔が熱くて熱くてたまらない。 冷めない顔を枕にグリグリと押し付けて悶えていると、携帯が震えてメールを受信したことを知らせた。 「お、及川さんからだ……」 しかも写真が添付されている。 オナニーと言う言葉を聞いた後のメール…… 何故か手には汗が滲んでいて、緊張している自分がいた。 《俺も写真あげるね。オナニーする時に使って》 お、俺がオナニーする時に使えって! なんつーこと言うんだよ!! 心中で叫びながら添付された写真を見る。 それは夜景をバックに、窓の桟に座っている及川さんの写真だった。 その表情は、瞳を甘くさせ、口元にはエロい笑みを浮かべていて…… 淫靡な雰囲気を漂わせている。 おまけに服の中に手を入れていて、チラリと見える綺麗に筋肉のついた腹が、更にエロさを際立たせていた。 な、なんだよこれ…… よく彼がセックスする直前に見せていた表情と同じで その時のことを思い出してしまい、 俺は無意識に生唾を呑み込んでいた そう言えば……自分は最後にいつオナニーしたっけ? 及川さんと付き合いはじめてから今まで、したことなかったような…… 付き合う前は、及川さんのことを想像しながらヌいたことはあったけど、付き合い出してからは及川さんが抱いてくれるからそれで満足して、自分ではヌいたことなかったな…… 「こ、この写真を使ってオナニー、してみる……か?」 寂しさで忘れてたけど、そう言えば俺、たまってたかも…… 「よし……やってみるか……」 何回もしたことあったのに、久々すぎてスゲー緊張する…… 部屋のドアを開けて、近くに親が居ないか確認、耳をすませてみる。 よし、大丈夫みたいだ…… 見つかったら軽く死ねる自信がある ティッシュを取ってベッドに座る。 少しズボンを下ろして、陰茎を引っ張り出した。 胸がバクバクと激しく音をたてだす。 置いていた携帯を掴み、彼の写真を見ようとしたがなんか余計に恥ずかしくなって、ひとまず彼から誕生日の時に貰った、 でっかいシロクマのぬいぐるみを抱き締めながらオナニーしてみることにした。 及川さんが言ってた、これは俺だよって…… だからこのぬいぐるみを抱き締めていようと思った。 片方の腕でぬいぐるみを抱きながら、もう片方の手で陰茎を撫でてみる。 「…………」 まぁ、まだ気持ち良くはないよな…… ぬめりがあったらもう少しスムーズに手を動かせて、気持ち良くなるかもしれない。 俺は指をペロリと舐めて、それを塗り付けるように鈴口を擦ってみた。 「…………んー……?」 なんかくすぐったいだけで、ゾワッともビッともこない…… 及川さんにちょっとズボンの上から触られただけでもこの身体はゾワゾワときていたのに、まるで別人の身体みたいだ。 ぬめりが足りないのか? もっと強く擦るべきか? 俺は二本の指を口の中に含んで、しっかりと唾液を絡めるように舌を動かした。 舌を動かし指を舐める度、口腔でクチュ、クチュと厭らしい音がしてくる。 及川さんとのセックス中にこれと同じような厭らしい音を何回も聞いたことがあって、それを聞いただけで俺はいつも信じられないぐらい興奮していた…… しっかりと唾液を絡め、ヌルヌルになった指を口内からズルリとぬく。 唇と指の間を銀色に輝く糸が繋いでいて、トロリと切れた。 ぬいぐるみに顔をグリグリと埋めながら、ヌルヌルになった指で鈴口を擦る。 「及川さん、及川さん……」 ぬいぐるみに顔を思いっきり埋めて、愛しい人の名前を呼ぶ。 鈴口を擦っていた指が乾いてきて、途中掌を舐めて濡らし、亀頭を包み込むように掌を使ってグリグリと押し付けながら刺激を繰り返した。 「…………」 何度も掌を舐めては刺激し、また舐める。 けど、すぐに掌が乾く…… 「おかしいな……全然気持ち良くならねぇー……」 そろそろ先走りが滲み出てきてもいい頃だと思うのに……一滴もない ぬいぐるみに埋めていた顔を上げて、ジッと見つめる。 「及川さん……」 可愛いシロクマもこっちをジッと見て、笑っているような気がした。 本物の及川さんなら、すぐに俺をドロドロに溶かして、気持ち良くさせてくれるのに…… 「やっぱこいつは及川さんじゃねぇ……」 当たり前だけどこれは及川さんではない…… 彼から貰った大切なぬいぐるみ。 俺の宝物 でも、及川さんじゃない さっきまで弄りまくっていた陰茎に目線をうつす。 勃ち上がることなく、ヘニャりと寝ていた。 ぬいぐるみを隣に置いて携帯を手に取り、彼から送られてきた写真を開く。 淫靡な笑みを浮かべる彼を見つめる。 すんごくカッコ良くて、エロい…… 再び陰茎を掴み上げて、鈴口へと指を滑らせると、ピリッとした小さな痛みが走った。 「…………ハァ……」 弄りすぎたな…… 思わず溢れ出てしまった小さなため息。 エロい彼を見て、ドキドキするけど 所詮は写真 笑みは溢れても先走りは溢れてこない ムズムズムラムラしない 彼は、俺の写真でオナニーしたんだろうか? 勢い良くベッドへと倒れ込み、掴んでいた携帯の画面に写る彼に目をやる。 及川さん……好きです そう心の中で呟いて、そっと目を閉じた 自然と溢れ落ちる雫  俺は……ぬいぐるみじゃ、写真じゃあ、 ダメなんです 及川さんじゃないとダメなんだ

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