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第284話
気が付いたらもう朝になっていた。
最悪な目覚め。理由は分かっている。
オナニーでイけなかったこと。
と、半分ズボンを脱いだ状態で寝てしまっていたこと。
勿論布団なんか被っていなかったから、体がめっちゃくちゃ冷えてる。
そして……腫れぼったい目
「クソがッ……」
そう一つ吐き捨てて、ノロノロと起き上がる。
付き合う前にオナニーした時は、ちょっと彼のことを考えただけで直ぐイけてたのに……
もう及川さんは、想像の中だけでは収まりきれないほど強く、俺の中で大きく膨れ上がった存在なのだ。
そんなこと前から分かっていたけど……
直ぐに彼を頭の中に思い浮かべることは出来る、でもそれでイくことは出来ないみたいだ。
今までずっと彼の手で、熱で、
愛され、イかされてたから
自分一人だけではダメなんだ……
「飛雄ー! まだ寝てるのぉー?
朝よ、早く起きなさーい!!」
「やっ、やべっ!!」
考え事してたから、時間忘れてた。
母さんの強声が響き、パタパタと近付いてくる足音。
そう言えば俺、まだちゃんとズボン履いてなかった!!
この姿を母さんに見られたらヤバすぎる。
「か、母さん! 起きてる、起きてるっ!!」
「なんなのもぉー! 起きてるなら早くご飯食べなさい! 時間ないわよっ!」
「ワリー、分かってる!」
なんとかドアを開けられずにすんだ……
遠退く足音にホッと一息ついて、また彼のことを思い出して今度は大きなため息を吐きながら立ち上がった。
立ち上がった瞬間下腹部に違和感を感じて、思わずそこを押さえた。
なんか……ムズムズする……
違和感は感じたけど勃ち上がってはいないようで、ホッと胸を撫で下ろした。
もう時間ないし、これからオナニーするのは不可能だ。
したとしても今の俺ではイくことは出来ない。
でも傍に及川さんはいない……
「……どーしろっつーんだよ……」
吐き出すように一つぼやいてから、イライラしながら部屋を出る。
取り敢えず今日は、なるべく陰部に刺激を与えないように行動しよう……
イライラしすぎて母さんと喧嘩して、飛び出すように家を出た。
陰部を刺激しないように、それプラスイライラしてるからものすんごく変な歩き方になってしまう。
体育館に到着しても怒りは治まらず、中から響くボールの音に舌打ちした。
「朝練始まってやがる……」
遅刻した。考え事してた自分が悪い。
今日何回目かのため息を吐いてから体育館の扉を開けると、丁度田中さんと目があってしまった。
あ、やべっ……
「コラァーー影山ぁ寝坊かぁ!? たるんでっぞ!!」
「スンマセンっっ!!」
勢い良く頭を下げて謝ったが、怒りのせいで口調がきつくなってしまう。
それに田中さんは気を悪くしたのか、思いっきり眉間にシワを寄せた。
「なんだその態度はぁーー! 逆ギレかぁー?
罰として、外周10周ぅーー!!」
「ハイッッ! 行ってきます!!」
「ギャハハっ! 何やってんだ影山ぁ~」
体育館から走り出た後ろの方で、日向の笑い声が響いた。
続いて田中さんの怒鳴り声も
「ついでに日向も一緒に走ってこい!」
「えっ!? なんで俺まで!??」
「笑った罰だ! 行ってこぉーい!!」
「そっそんなぁーー!」
へっ! ざまあみろ
「ゴラァ影山ぁーー!!」
「あ゙ーーーーウゼェーー……」
後ろから日向が怒鳴りながら追い掛けてきて、ぼやきながら速度を上げようとしたが、服を引っ張られて上手く前に進めなくなった。
「あっ! 日向テメー、放せボゲェー!」
「うっせぇー! お前のせいでとばっちり受けただろ!」
「ハっ! 知らねーよクソが!」
「何イライラしてんだよ! 大王様となんかあったのか?」
なんでコイツはこうも鋭いんだ……
日向は突然俺の顔をガシッと両手で掴んで、まじまじ見つめてきた。
「なんか目ちょっと腫れてる気がするし……スゲー怖い顔してっし、
お前がこういう状態の時はいっつも大王様と何かあった時だからな……
もしかして、俺が撮った写真が原因で喧嘩とかしたんじゃねーよな……?」
「ちっ、ちげーよ!」
日向の手を払い除けて、俺は再び走り出した。
その隣に日向が並んできて、一緒に走ってくる。いつもだったら意地をはって、走る速度を上げたりするんだけど、今はそう言う気分にはなれなかった。
「俺の写真のせいで喧嘩になったんなら、ほんとごめんな……」
「だからちげーって……なんでお前が謝るんだ? お前は悪くねーだろ。
それに、及川さんとは全然喧嘩なんてしてねーから……」
「え? そーなのか? こういう時は大抵大王様がらみだからてっきりそーだと思ってたんだけど……じゃあなんでそんなイライラしてんだよ?」
なんでって……オナニー失敗したから……とか、言えねー……
あーー! そう意識したら余計に下半身がゾワゾワしてくる!
足を動かす度、ますます落ち着かなくなる!
「あ゙ぁあ゙あぁぁぁぁあ゙ああーーーークソがぁぁあ゙ぁぁぁーーーー!!」
「はえ!? え? はぁ? か、影山!?」
我慢出来なくなって俺は叫びながら、と言うか吠えながらの方が正しいか。
とにかく大声を出して全力疾走した。
せずにはいられなかった。
日向が間抜けな声を出して、慌てたように追い掛けてくる。
「おいおい、どーした影山くん?
突然んなデケー声出して、ほんと怖いよ?」
「うっせぇーこの日向クソボゲェー!!」
「なんだよ! お前、俺は悪くないって言ってただろ?」
「あーーそーだよ! お前は悪くねーよボゲェ! 日向クソボゲ!」
「ハハッ、どっちだよっ!」
「うおおぉぉおぉおおぉおぉぉーーーー!!」
「ハハハッ! ほんとなんだよお前! コラ影山、待てコラ!」
走りながらまた雄叫びをあげた俺に、
日向が楽しそうに笑って、走る速度をあげて俺を追い越してきた。
「あっ! 日向ボゲェ待てゴラァ!」
「へへーーん、負けねーぞ影山!
うおおぉぉぉぉおおぉおぉおぉーーーー!!」
何故か日向までもが雄叫びをあげ出して、俺も負けじともっと声を張り上げる。
二人で叫びながら競争するように走った。
俺達は夢中で走ってたから気付かなかったけど、登校してきた他の生徒達にスゲー注目されてたらしく、軽く騒ぎになったらしい。
もちろん先生に怒られたのは、言うまでもない。
そんでもって、バレー部の三年生達にも、こっぴどく叱られたのも言うまでもない……
「クソーー……日向ボゲェ、お前のせいで怒られただろーが!」
「はぁ!? 先に騒いでたのはお前だろ?
なんでそんなイライラしてるのか、未だに教えてくれねーし……」
「うるせぇー日向ボゲェ! クソが!」
俺の罵倒に日向が眉を吊り上げて、口を開いたその時
「お前ら、なんかスゲー楽しそうだったな」
後ろから突然声を掛けられて、俺達は二人揃って振り返った。
そこに居たのは、
にこやかに笑ってこちらに近付いてくる、黛 至の姿があった。
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