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第286話

未だに俺のイライラ、ムズムズは治まっていなかった。 昼休みになった今もだ! イライラを押さえ込むように、弁当を勢い良く掻き込む。 授業中もスゲームズムズイライラしてて、先生達に注意されたりで余計に爆発しそうだった。 あーーダメだ! じっと座ってられねぇ。 バレーしに行くか! そう思い至って勢い良く立ち上がったその時、下腹部に強烈な違和感を感じた。 「ウッ!!」 思わず違和感を感じたところを手で押さえる。 クラスメイト達が変な格好をしている俺を、ジロジロ見ながら笑っている。 あーーもうバレーどころじゃねぇ! 早く誰もいねぇとこに行かねーと! 教室を飛び出し、人が居ないところを探す。 でも今は昼休みだから、何処もかしこも生徒達がいる状態だ。 校舎を出て、グラウンドなどをあてもなくひたすら走りまくっていると、眼前に階段が見えてきた。 「そーだ、プールがあったんだった!」 そー言えば校舎から離れたところに階段があって、それを上がるとプールがあったことを思い出した。 しかも今は4月。水泳の授業もないし、人が来ることは恐らくないだろう。 俺はプール横にあるトイレへと足を進める。 案の定そこには誰も居らず、静寂に包まれていた。 俺はトイレの個室に入り、しっかりと鍵をかけた。 「はぁ、はぁ、はぁはぁ、」 肩で息をしながら忙しない手付きでベルトを外し、ズボンを下げて、下着から一物を引っ張り出した。 こんなにずっとムズムズしてるんだ。そろそろイかせて、楽にしてくれよ! 「ん、くっ……う、うぅっ……及川さん……」 及川さんの姿を頭に思い浮かべながら、必死に陰茎をしごいた。 だけどやっぱり焦れば焦るほど手に力が入ってしまい、陰茎を痛めるだけだった。 「んでだよ……」 自然と口から溢れ落ちた呟きは、静まり返ったトイレ内に響くことなく消えていく。 壁に身体を預けて、ズルズルと下へ下がり、膝を抱える。 及川さんは傍にいないのに…… もうしばらく会うことは出来ないのに どうすれば良いんだ…… 俺はずっとこのままなのか? ずっとイライラして、ムズムズして。 俺がこんなんだって知ったら、きっと及川さん困るだろうな。 きっとごめんねって、及川さんは何も悪くないのに謝ってきて、 笑ってほしいのに……困らせてしまう 「及川さん……」 あぁ……名前を呼ぶだけで、こんなに愛しい気持ちが溢れてくる…… 俺はあんたが傍にいないと、何にも出来ないんだな…… どんなに悲しんだって、イライラしたって、及川さんを困らせてしまうだけだ。 一つ大きなため息をついて、ノロノロと立ち上がる。 いつまでもこんなとこにいるわけにはいかない。 トイレの鍵を開けて、ノロノロと外へ出る。 力なく階段を下りて、フラフラとただ前に進んでいると、誰かがこちらへ向かって走ってきた。 「影山!?」 「へ? あ……」 近付いてきたのは黛先輩だった。 先輩は不思議そうな顔をして、俺の顔を覗き込んでくる。 「どーした影山、そんな辛そうな顔して……」 そう言って、俺の頬へと手を伸ばそうとしてくる。 その瞬間、何故か及川さんの悲しそうな顔が頭の中を過った。 咄嗟に触れてこようとしていた先輩の手を、思わずかわしている自分がいた。 「か、影山?」 眉を下げて、あからさまに傷付いたような顔をした黛先輩に、慌てて頭を下げる。 「すっ、すんません!!」 「あ……いや、ごめん……突然触ろうとして。 嫌だったよな?」 「……嫌とかそー言うんじゃねーんすけど……」 自分でも分からない。 何故あの時及川さんの顔が浮かんできたのか。 でも、だからと言って、黛先輩を傷付けても良いわけではない。 「すんません……嫌じゃないです。 ちょっとビックリしただけっす……」 「そ、そーなのか? …………俺、影山に嫌われたのかと思った……」 そう言って俯く先輩に慌てて首をふる。 「き、嫌いとか全然そんなことねーっす!」 「そ、そうか? ならいーんだけど」 少し先輩の表情が晴れて、ホッと一つ安堵の息を吐いた。 黛先輩は相変わらず眉を下げながら、それでも口角を上げて喋りだす。 「影山朝、なんか機嫌悪そうだったから、ずっと気になってたんだ。 そしたら今度はスゲー悲しそうな顔してるからさ…… 心配で……」 「黛先輩……」 黛先輩ずっと俺のこと心配してくれてたんだ…… スゲーいい人だな…… 「何か悩みがあるんなら聞くよ?」 「えっ!?」 すごい優しい言葉に、嬉しさが込み上がる。 でも俺の悩みって……オナニーでイけないこと…… なんて、言えねーー!! 「いや~~あの……えっと……」 「つーか、あっちってプールがある方だよな? 水泳の授業があるわけでもないのに、何しに行ってたんだ?」 「え~~あ~…………うぬん……」 何しにって……言えるわけねーーっっ! 返す言葉が思い付かず、口ごもってしまう。 そんな俺にどう思ったのか分からないが、次の瞬間何故か黛先輩の目の色が怪しい色に変わった気がして、俺は思わず目を見開いた。 「それにさ……もしかしてだけど影山、今……」 黛先輩がそう言い掛けたところで、午後の授業の予鈴が鳴り響いて、先輩の声を掻き消していった。 「あ、……昼休み終わり、ましたね……」 「……ああ、もうそんな時間か…… ほんと何でも聞くからさ、何か悩み事があったら何でも言えよ! 分かったな? 影山!」 「えっ!? あっ、ウッス!」 「ん、よし! じゃあ俺、行くな!」 そう言って走り去る黛先輩の背中を見送りながら首を傾げる。 先輩、さっき何を言いかけたんだろう? それに……さっきのあの怪しい、なんとも言えない空気はなんだったんだろうか?

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