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第289話
及川さんに隠し事は出来ない
彼は俺の全てを知って、理解してくれている。
それがものすごく嬉しくて、なんだか恥ずかしい……
『及川さんに全部話してごらん』
ずっとイライラ、ムラムラしてた。
部活にも身が入らなくなって
辛すぎて、及川さんが恋しくて……
でも、こんなこと及川さんに話したって、やっぱり彼を困らせてしまうだけなのに……
きっと気まずくなるって分かってんのに、話すのか?
「及川さん……俺、あんたを困らせたくないんです。
だからこれは、聞かない方が良い……」
『何それ? なんで俺が困るの?』
「だって、それはっ!」
言葉が続かない。
どう言えばあんたを困らせないか、気まずくならないか、正解が分からない。
何も思い付かず、ずっと口を開けない俺に、及川さんは呆れたように大きなため息をついた。
それが俺の胸を重くさせた。
ため息をついたってことは、彼はイライラしてるってことだ。
やっぱり困らせてしまったんだ。
悲しくなって、俯くことしか出来ないでいると、彼は想像よりずっと優しい、明るい声で喋り出した。
『だから言ってんじゃん!
お前は一人でしょい込んで、一人で悩んじゃうからずっと前に進めず行き詰まっちゃうんだよって。
ねぇ飛雄、ごちゃごちゃ悩んでないでさ、全部及川さんにぶちまけてみな』
「でも!」
『でもじゃない!
困らせるとか余計な心配すんなよ!
及川さんはちょっとやそっとじゃ潰れない、困らないよ!
俺を見くびるなよ。
及川さんはね、飛雄を守るために、飛雄の悩みとか苦しみとかを全部受け止められるほどのパワーを持ってるんだよ。
すんごい強いの! 超人なの!』
彼は自信満々にそう言い切った。
あまりにも得意気に言うから、ずっとモヤモヤして悩んでたって言うのに、もうそーゆーの全部馬鹿らしく思えてきた。
「ははは、そっか、超人か……
まぁ、中学の時からあんたのことスゲーって思ってはいたんですけど。
今改めてあんたのすごさを再確認しました」
『ははっ、でしょ?
及川さん超人だからね!』
本当は分かってる……
告白されたあの日からずっと一緒にいるから……
確かにあんたはすごく強くて頼もしくて、カッコいい俺の自慢の彼氏だ。
でも……完璧じゃない、弱い部分もあるって知ってる。
だからこそ、それが愛おしくて
強がって、頑張って、必死に俺を包み込んで、守ってくれようとしてることも……
ただのスゲー超人だったのなら、俺はここまであんたを愛さないし、あんたのことで悩まなかっただろう。
だから、俺は……あんたと一緒にもっともっと前へ進もうと思った。
「……及川さん、俺、あんたが今すぐ欲しい……
もう……一人じゃダメなんです。
あんたと付き合う前は一人でもどうにか出来てたのに、あんたの温もりを知ってしまったから、もう、一人じゃどうすることも出来なくなってしまったんです。
どーすりゃ良いんすか?
教えて下さい及川さん!」
『…………ねぇ、飛雄……
それってやっぱり、全部及川さんのせいだよね?』
「そーっすよ! 全部あんたのせいです!
責任とって下さい!」
何がどうして俺が困って悩んでいるのか、何一つ話していないのに、及川さんにはやっぱり全てお見通しだったみたいだ。
『やっぱりお前は、俺がいないと何にも出来ないんだね』
「……そーっすよ、悪いですか?」
『全然悪くない。むしろすんごい嬉しい。
昨日はゴメン……自分だけ気持ち良くなって』
「……っ」
やっぱり、あんたは何もかも気付いてる!
『俺ね、やっぱり本物の飛雄が一番だよ。
俺だって写真だけじゃあ、完璧には満足出来てないよ。
でもさ、飛雄の寂しさを少しでも埋められたら良いなって、及川さんの写真なんかじゃ、絶対に埋められないって分かってたけどさ……
それでも、少しでもって思ってたのに……
逆にお前を悩ませちゃったね……』
「及川さん……ほんと、あんた何でも分かるんすね」
『あったり前でしょ! 飛雄のことだもん!
でも……大丈夫!』
「え?」
そんな自信満々に、何が大丈夫なんだ?
『及川さんに任せて飛雄……』
優しい声でそう言われて、どう任せれば良いのか分からないけど、
彼のその言葉に、胸が大きく高鳴っている自分がいた。
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