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第298話
おいかわさん……おいかわさん……
突然耳元で大きな音がして、俺は慌てて飛び起きた。
「うえっ!? 及川さん!?」
ずっと頭の中を占領して、埋め尽くしていた愛しい人の名前を無意識に叫ぶ。
だってずっとあなたのこと考えていたから
でも、目の前には及川さんは居なくて、代わりに
ピリリリリッ、ピリリリリッ
と着信音を響かせて、携帯が震えていた。
「あ……電話……」
虚しい気持ちを押し込めて、そう呟きながら携帯を手に取り相手を確認する。
ディスプレイには、
“及川さん”
という文字が表示されていた。
「っ!!」
ずっと考えていたから、及川さんにこの気持ちが届いた?
俺は急いで通話ボタンを押した。
「もっ、もしもし!!?」
『うわっ、すんごい大きい声! ビックリしたぁ~』
「あっ、すっすんません!」
だって嬉しすぎたから、つい声が大きくなってしまう。
そんな俺に彼は楽しそうに笑った。
『ねートビオちゃん、さっきまで寝てたんでしょ~?』
「え? はい……そーっすけど?」
『フフ~ン、やっぱりねー♪』
何故か得意気に笑う及川さんに首を傾げる。
「なんで分かるんすか?」
『なんでって、そんなの何回も言ってんだろ。飛雄のことなら全てお見通しだって』
その言葉にカーーっと顔が熱くなって、口が勝手にムズムズと動いてしまう。
そうだ
及川さんは俺の全てを知ってくれているんだよな。
『お前イッた後気絶しちゃったみたいだったからさ、どうせ目覚ましとかセットしてないだろ~なぁ~って思って、電話してあげたんだよ~
モーニングコールってやつ!』
そう言われてやっと気づいた。
そうか俺、あのまま気ぃ失ったんだな……
気持ち良すぎて気絶するとか、スゲー恥ずかしい……
ずっと頭の中及川さんでいっぱいで、夢の中でも及川さんが居て、夢と現実がゴッチャになっててよく分からなくなってた。
時間を確認すると、丁度良い普通に朝練に間に合う時間だった。
『俺ってホント良い彼氏だよね~
気が利く~~』
「自分で言うんすかそれ……」
『お前もそー思うだろ?』
またも得意気に言われた言葉に、思わず笑みが溢れる。
確かに、俺には勿体無いほどの良い彼氏だって、自分でも思う。
だからって他人には絶対に譲る気なんてさらさらないけど。
『な~んて言いながら本当は、ただ単に一回だけで良いから飛雄に、モーニングコールしてあげたかっただけなんだけどねー』
「……んだよそれ……」
『及川さんの夢、かなっ!』
「…………」
『叶って良かった』
「なんだよそれ……」
『…………お前が望んでくれるなら、何回でもしてあげるよ?』
夢とか、叶ったとか……
こんなこと、及川さんには得なこと何一つ無いのに、そんな嬉しそうに言って
それってはっきり言って面倒臭いことだと思うのに、俺が望むならって……
「そんなの俺ばっか得してるじゃねーか」
『そんなことないよ。俺がしたいんだ。
朝早くに飛雄の声が聞けるって、最高じゃん?
お前の寝起きの声可愛いし、それに……
なんかセックスして、一緒に寝て、一緒に目覚めた朝……って感じがして、ドキドキするじゃん!』
「……んだよそれ……」
『ふはっ……お前そればっか』
あんた本当に……
「良い彼氏だな……」
ポロっと勝手に自然に溢れ出た言葉
『でしょっ!』
及川さんの弾んだ声に、また口がムズムズと動いてしまうのを止められなかった。
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