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第299話
『良い彼氏ついでに……ねぇ飛雄、風邪ひいてない?』
「え? 風邪っスか? ひいてないですけど……」
どうしてそんなこと聞くんだろうか?
そう聞かれて、そう言えばなんだか肌寒いなぁ……なんて思っていると、及川さんがフフッと声を出して笑った。
「? なんスか?」
『お前今、下何も履いてないんじゃない?
そのまま寝て、寒かったでしょう?』
そう言われて、下の方へと目線を落とすと、彼の言葉通りパンツすら履いていなかった。
「ア"ッッ!」
なんで今まで気が付かなかったんだ!?
普通気付くだろ!!
そう頭中で自分を叱咤しながら、誰もいないのに慌てて前屈みになり下半身を手で隠した。
そうした途端及川さんは、今度は大きな声を出して笑い出した。
『アハハハハハッ! 何隠してんのー?
カワイ~うけるぅ~!』
「なっ、なっ! か、隠してねーよ!!
適当なこと言わないで下さい!」
くっそーー! またあの、俺のとこは全てお見通しってやつか!
こう言う恥ずかしいことまで見通さなくてもいいのに……
『可愛いの隠さなくてもいーじゃん、堂々と出してなよ』
「可愛いって何がだよ!?」
『え? 言わせたいの?
何ってトビオちゃんのおちん──』
「ああぁーーーーーーっ!! 言わなくてもいいっっ!!」
そんな言葉、あんたの声で耳元で響くなんて、恥ずかしくて耐えられない。
思わず絶叫した俺に及川さんは、また楽しそうに笑った。
『お前そんな叫ぶのは良いけど、家族に聞かれてない?』
大丈夫?って問われて、俺は思わずあっ!と声を出して、背筋が勝手にピンと伸びた。
慌てて部屋のドアを開けて、キョロキョロと辺りを見渡す。
俺の自室は二階にあって、一階の方からなんか皿を動かすような音が聞こえてくるだけで、それ以外は特に何も聞こえてこないし、二階には誰もいないようだった。
「取り敢えず……大丈夫みたいです……」
『ホントー? なら良かったね~
昨日お前、すんごい声出して喘いでたから、お母ちゃん達に聞かれてなかったか心配で心配で~』
「あ"っ!!」
ヤバい……
快楽に夢中になってて、母さん達がいること忘れてた……
聞かれてたらどうしよう……居たたまれな過ぎて死んでしまいそうだ。
俺がガックリと項垂れていると言うのに、彼は相変わらず楽しそうに笑って、とんでもないことを言ってきた。
『後お前、布団にチンコ擦り付けてたみたいだけど、精液シーツについてない?
大丈夫ぅ~?』
「ッッ!!」
その言葉に思い当たる事がありすぎて俺は、慌ててベッドから飛び退いて布団を見てみると、彼の言う通りシーツにベットリと精液が付着していた……
「~~~~っ……くっ、クソがぁッ!!」
ボフッと布団を殴って、吐き捨てるように大声を出す。
『あ~やっぱりついてたかぁ~~
飛雄がエッチ過ぎるからいけないんだよねー 仕方な~い仕方な~い』
「ウッセーボゲェッ!」
なんか久しぶりにからかわれた気がする。
腹立つけどちょっぴり嬉しくて、でもやっぱり腹が立って、俺はまた声を荒らげる。
『あ~あ~可哀想にトビオちゃん
よしよ~し、よちよ~ち』
よしよし……
この言葉は彼を近くに感じられる
囁かれただけでスゲークラクラして、甘くてドキドキして、嬉しくてポカポカ温かくしてくれる魔法のような言葉だったのに……
そんな風に言われたら、こんなにも意味が違ってくるなんて。
俺のトキメキを返せ!!
「が、ガキ扱いすんなこのボゲェッ! クソ川っ!!」
『はぁーーーー? 飛雄のくせに生意気!
お口の悪い子だね!
岩ちゃんの真似するなんて、トビオちゃんも随分と偉くなったもんだねっ!』
「あんたがよちよちとかガキ扱いするからでしょ!
このボゲェ! クソボゲェ!!」
『仕方ないよ、お前は本当にクソガキなんだから』
「なっ、こ、こんのクソ川ぁ!
ボゲボゲボゲェーーーーっっ!!」
『お前またクソ川って言ったな!
それにそのボゲェも岩ちゃん譲りじゃないの?
ほんと岩ちゃんも困ったもんだよ!
善悪の区別もつけられないようなクソガキにそんな悪い言葉教えて……』
そう及川さんが喋っている途中で、足音と母さんの声が近付いてきた。
「飛雄ーー! あなたさっきから何大きな声出してるの!?」
「やっ、ヤッベっ! 母さんが来るっ!!」
俺は急いでズボンを履いて、布団に飛び散った精液を隠そうとその上に座った。
あーークソッ! 洗い物が増える!
そう考えていた次の瞬間には母さんが部屋のドアを開けて、中に入ってきた。
危機一髪……
「何してるの飛雄! 早く支度しなさい!
遅刻するわよ」
「ご、ごめん……すぐ行く……」
「及川くんと仲が良いのは良い事だけど、早くご飯食べなさいよ!」
そう怒鳴ってから母さんは部屋から立ち去って行く。
「えっ! ちょっ、なんで及川さんって分かった!?
かーさん!?」
『ギャハハハハハ! あーー面白っ!
バレちゃったねトビオちゃん』
携帯の向こうで及川さんの笑い声が響いてくる。
俺はと言うと、サーーっと血の気が引いたのが自分でも分かってしまうほど、狼狽えていた。
「なんでバレたんだ?
も、もしかして……俺のあの声も聞かれてたんじゃねーだろーなぁ……」
『あーーそーかもね〜大変だね飛雄〜
じゃ、頑張ってね! またモニコしてあげるから元気出してね。
ば〜いっ!』
丸で他人事かのようにサラリと言ってから、あっさりと電話を切りやがった。
「そんなもんいらねーーーーよボゲェ!!」
もう切れているのに携帯に向かって怒鳴り散らす。
本当はモーニングコールとやらが欲しいに決まってるけど、そう叫ばずにはいられなかった。
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